マウラにて (猫の目線)
マウラにて (首氏の壁)
リルxクラード

「あ、あの、今夜のプレゼントは、わ・た・し…です!」

 …本当にこれで良かったのだろうか?と、わたしは悩む。
 「星彗祭のプレゼントは何が良いですか?」と質問したら、彼は、「オパーラインドレスを着てこの台詞を言う」という、不思議なリクエストをしてきた。
 モグハウス前の、少ないとはいえ通りのある場所でこの台詞を言うのは、顔から火が出るほど恥ずかしかった。通りすがりの人にじろじろ見られるし。
 いろいろ考えたけど、わたしは、彼が欲しい物をよく知らない。
 彼は、自分が欲しい物は、自分で手に入れる人。困難を克服することを目標にする人だ。
 他人から贈られる…言い方を変えれば、貢がれる…ことを、あまり良く思っていない。だから、単純に高価な品物を贈っても、きっと断られる。
 彼を喜ばせる物が思いつかない自分に、少し失望した。

 でも、いまわたしを抱き上げている彼はとても嬉しそうだった。
 お姫様抱っこ、と言うのだろうか。わたしを軽々と抱き上げて、自室のベッドまで運ぶ。
「包装は、はがさないとね。…本当はこのままがいいんだが、汚しても悪いし。」
 そう言って、ブーツからゆっくり脱がされていく。いつもと同じといえば同じだけれど、何だかとても恥ずかしい。
 つま先に口付けされて、ぼうっと身体が熱くなる。
「いただきます。」
 そう言って、背中のファスナーを下ろされる。袖が無いドレスはすとんと降りて、胸のところまではだける。
「下着も、違うんだな。」
「…一点もの…なんですって…」
 まじまじと見つめられて、恥ずかしくてたまらない。
 このドレスを縫った、裁縫師範であるフレのこだわりは、外からは見えない下着にまで及ぶ。変な下着を着ると、全体のラインが崩れるんだって主張する。
 用意された下着は、わたしから見ると…すこし布が薄すぎて、少なすぎる。甘いデザインと綺麗なフリルはとても素敵だと思ったけど、こんなのをはいていたら、階段を登るとき、お尻が気になってしょうがない。
「良いデザインだな。作った本人はあまり気に入らないが、趣味は合うらしい。」
 …でも彼はこういうのがスキらしい。
 ブラをはずさずに、そのまま両手で優しく揉まれる。たまらなくなって、わたしは仰向けに倒れこんだ。快楽に身をよじると、ドレスはますますはだけていく。短めのスカートの裾が捲くれ上がったのを感じて、慌てて戻そうとしたら、彼の手がやんわりと止めた。
「…皺になるかな…?汚さないように気をつけるから…」
 えっ?
「このままで。」
 ええっ!?

 ブラのホックがぷつりと外され、あらわになった胸に片手が、もう片手は、薄いパンティの中に潜り込む。
「…だっ、駄目っ!」
 ドレスが皺になるとか汚れるとかそういうことは、あまり気にならない(少しは気になるけど)。それよりも、いつもとちょっと違うこの状況がたまらなかった。
「とても可愛いよ、リル。」
 わたしの少しばかりの抵抗は、強い力と甘い言葉で封じ込められる。
 乳房は強く弱く刺激され、パンティの中の指は、熱い中心を探り出して、裂け目をゆるゆると往復する。
「…んっ………」
 わたしの声が高く弱く、鳴くような声に変わっていく。
 頭の中が白くなって、自分が自分で無くなる前に、わたしは手袋をつけたままの両手を、求めるように彼に伸ばした。
「…キス…して…」
 彼の顔がそっと近付く。唇が温かいもので包まれる直前の、本当に優しい彼のまなざしが、大好き。
 熱くて深い、今日最初の口づけに酔わされる。その間も、指はわたしの弱いところを、じわじわと責め続ける。
「…は…ぅ…」
 唇が離れて、わたしの熱い息が漏れた。
 クラードの熱っぽい視線が、わたしの頭のてっぺんからつま先まで、余すところなく注がれる。それだけで、触れられていないところまで、くすぐったいような、熱いような感覚になる。
「…下着、きもちわるい…脱がして…」
 ぬるぬるした感触に耐え切れずにお願いすると、するすると器用にパンティが脱がされ、片足だけ抜けて、もう片足の、膝の少し下のところに丸まった。
 だいじなところを隠すものが無くなって、膝を曲げてだらしなく脚を広げた格好は、恥ずかしくてたまらない。でも、脚を少しでも閉じようとすると、とたんに彼がすごい力で押し戻して、さらに淫らな格好にされる。
 長い指が、ひだを探りながら、奥へ奥へ潜り込む。ぞくぞくする快楽が背筋を駆け抜け、リボンのついた尻尾の先が、せわしなく布団を叩く。
 ……きもち…いい……
 ゆっくりと快楽の波に溺れていた最中、ふっ、とその指が引き抜かれた。
「ぁ………」
 思わず漏れた失望の声に恥らう間もなく、もっと大きくて熱いものが、わたしの中心を深く貫く。
「…んっ!」
 彼と何度繋がっても、受け入れる最初の瞬間は、少し苦しい。
 彼もそれをわかってくれていて、いつもは最初はとても優しい。お互いが馴染んで、身体の力が抜けるまで待ってくれる。それから、ゆっくり前後に動く。突かれると苦しくて、引かれると気持ちいい。その繰り返しがだんだん早くなって来ると、もう頭では理解できなくなる。
 胸が苦しい。はぁはぁと熱い吐息を漏らすわたしの頬を、クラードの大きな手が包み込んだ。
「……リル…声、聞きたい…」
 クラードの声もかすれていた。
「くら…ど……」
 か細く震える高い声。まるで自分の声じゃないみたいな、甘い声が彼の名を呼ぶ。
「…くらぁ…ど……ぁ…!」
 もう一度、大好きな人の名前を呼ぶと、彼がわたしの中で滅茶苦茶に暴れる。
「…ああ…っ!!」
 最奥で彼のものが脈打ち、どくどくと熱いものが、わたしの胎内に注ぎ込まれた。

 汗でぐっしょりと濡れたドレスを、クラードがそっと脱がせてくれた。背中に触れられただけで、まだ熱い肌はぞくりと震える。
「…クリーニングしないと駄目だろうなぁ、これは。…ごめん。」
 申し訳無さそうに、クラードが頬をかいた。脱ぎ忘れていた彼の真紅の礼服も、すっかりよれよれになっている。
 わたしは、ううん、と首を振った。
「今夜のわたしは、贈り物だから…好きにしてください。」
「…狙って言ってないとしたら、すごい才能だな。」
 クラードが複雑な顔をして、わたしに迫る。
「その台詞だけで、もう一度襲える…ぞ。」
 あはは、とわたしは引きつった笑いを見せた。…ちょっと、もう一回は無理そうです。
 クラードは自分も着替えると、わたしの肩に、赤いローブをかけた。
「風邪をひく前に、それを着なさい。パジャマ代わり。…悪いね、後衛用の服は倉庫なんだ。寝ても良いよ、眠そうだしね。」
「はい………やっぱり、おっきいですね。袖が余っちゃう。」
 彼の大きなドリームローブを羽織ると、なんだかとても嬉しくなって、わたしははしゃいだ。そんなわたしに振り返って、クラードはまた、困った顔をする。
「…やっぱり才能あるよな。」
「???」
 わたしは首を傾げながらも、毛布に潜り込んだ。ベッドに横になると、疲れがどっと押し寄せてきて、そのまま浅い眠りに意識がれて行かれる。

 彼と初めて過ごす、幸せな星彗祭の夜は、まだ始まったばかりだった。