灰色の魔道士

<キャラフェイス>
ルナ タル♀F5青髪
リッツ ヒュム♂F1茶髪
リー・ウェイ ミスラF7金髪
アリューシャ エル♀F6黒髪
タップ=ロップ タル♂F8金髪


誰もが一度は思い描く甘い夢

だが現実はひどく滑稽で残酷なものだ


白と黒の能力を己の意志で自由に使い分けることのできる特殊能力の持ち主ルナ。
そんな重大な秘密を知られてしまったら普通は口止めをするだろうが彼女はあっけらかんと言った。
「私はリッツを信じてるから。」
「おいおい、そんな簡単に信じていいのかよ。」
「私を守ってくれたから。」
「俺は何もしてないぞ。」
それどころか蓑虫にされて無様に這いずっていたのを助けてもらったぐらいだ。
思い出しただけで情けないやら悔しいやら、
今度あの赤魔道士たちに出会ったらぶん殴ってやると心に決めた。
「あの場所にリッツは居なかった、だから助けてくれようとしてるんだって。それだけで信頼に値するわ。」
にこーっと笑ったルナにタルってのは可愛さを最大限に利用するツボを心得ているなと感心する。
「そりゃ、どうも。」

そんなこんなで、リッツはルナと行動を共にすることが多くなった。
愛だの恋だの甘い感情からではなく、友人としてだ。
リッツは元来群れることを好まないので、どの冒険者ギルドにも所属していなかったが、
それを知ったルナは彼に自分が主催するギルドのリンクパールを無理やり押し付けた。
「4人しかいない小さなギルドだから気を使わなくていいよ。」
そう言うが早いかみんなが待っているからとウィンダス行きの飛空挺に乗り込んだのが数時間前。
渋々付いてきたはずのリッツだったが、ウィンダス水の区のレストランで紹介された新しい仲間に
すっかり打ち解け強かに酔っ払っていた。
リー・ウェイは守護戦士たちのような凛とした感じがするミスラの赤魔道士。
これぞサンドリアの騎士という出で立ちのエルヴァーンがアリューシャ。
ローブを着て鎌を背負っている姿は黒魔道士にしか見えないタップ=ロップ、実は暗黒騎士だ。
リッツもいける口なのだがみんな異常に酒が強かった。
「なぁんでぇそんぁに強ぃんらぁ?」
酒のせいでロレツの回らないリッツにニターと笑って体質の違いだと笑うタルタルたち。
「私たちのジョブを考えれば簡単なことですよ。」
ヒントを出したリーにルナとタップはぶぅー!っとふくれっ面を向けたが、リーは涼しい顔でかわす。
ナイトに暗黒に赤に白、リッツは指を折りながらあることに思い至った。
全部魔力を有する職業で戦闘中に魔力の回復を助けるジュース類を飲む。
このジュースのうち効果の高いものほどアルコール分を多く含んでいるから酒にも強くなるのだ。
「そぅらぁ〜そぅだ〜ょなぁ。」
自分が弱い訳ではないと安心したのか、ぱったりとテーブルに倒れるとそのまま眠り込んでしまった。

このままにしてはおけないだろうから私が送る、とアリューシャが立ち上がった。
騎士でもあり身長でも勝るアリューシャなら無理ではないが、
正体を失ったヒュームの男を一人で連れていくのは大変ですよ、とリーも立ち上がった。
一緒にレストランをでると両脇からリッツを抱えて帰っていく2人を見送る。
「じゃあ今日はお開きかな。」タップが聞く。
その顔を見て何か話したいことがあるらしいと察したルナは
飲み直そうか!とタップの肩を叩いてルナの部屋がある区画へと向った。
レンタルハウスとは違いルナの部屋はタルタル様式の家具できれいに揃えられていた。
座卓の下には麻で編んだラグが敷かれ、丸い籐製のクッションが置かれている。
籐の衝立で仕切られた向こう側にはタルタルデスクとスツールがある。
部屋の奥にも衝立がありそこにはベッドが置かれているようだった。
へぇ〜っと感心したようにタップはキョロキョロと部屋を見回す。
「女性の部屋をじろじろ眺めるもんじゃないわよ。」
「ああ、ごめんごめん。でも、ここまで完璧なのは珍しいと思って。」
お盆にグラスとタルタルライスを発酵させて作った酒、つまみを載せてキッチンからルナが戻ってくる。
「レンタルハウス暮らしが長いとタルタルサイズの家具が恋しくなるのよ、まぁ座って。」
「そうだよな、俺はアリューシャのとこにいるから余計だよ。」
アハハっと照れくさそうに頭を掻くタップ。
「やっぱりそのことで何かあるの?」

約半年ほど前、ウィンダスに逗留していたルナの元へアリューシャの悲痛な叫びが飛び込んできた。
アリューシャは新たなルートが拓かれたアットワ地溝に派遣される大規模な調査隊の護衛として参加していた。
順調に思われた調査だったが、そこで途轍もないモンスターと遭遇してしまう。
調査隊は壊滅し、生き延びた者を逃がすために最後まで踏みとどまったのがアリューシャとタップだった。
最後の魔力でモンスターの足止めに成功したタップと共にその場は生きて抜け出せたものの
アットワ地溝を抜ける途中で奇怪な植物の猛毒を浴びてしまう。
手持ちの薬品が底を尽いていたアリューシャに「丁度2本残っていたよ」とタップは毒消しを1本差し出した。
シャクラミの地下迷宮へと続く回廊まで辿り着き、一息入れようと前を行くタップの肩に手を掛けた
途端、彼の小さな身体がぐらりと傾き、地面に崩れ落ちた。
慌てて抱き起こしたタップの全身には毒が回って既に紫色に変色していた。
「あれは最後の1本だったのか!」エヘヘと苦しげに笑うタップ。
「何故だ!」
「…俺、も・・・騎士な、んだ・・・女性ま・・・守らな・・・きゃ・・・」
「私はサンドリアの聖騎士だぞ!女も男もあるか!」
「ア・・・アリュ・・・ャ・・・き・・・れい・・・ま、もりた・・・か、った・・・」
血にまみれ紫に腫れあがり小刻みに震える手がゆっくりと伸びて汚れたアリューシャの頬に触れる。
「バカ・・・」
にっこり笑うとタップは目を閉じた。小さな手がぱたりと落ちる。
「だめだ!死ぬな、絶対死ぬな!」
ぐったりしたタップを抱え、群がってくる雑魚モンスターを蹴散らし地下迷宮を駆け抜ると
「ルナ!ルナ!お願い!今すぐメアまで来て!」リンクパールに向って叫びながら
アリューシャはメア岩を目指して走った。

ルナの高位蘇生魔法で何とか命を繋いだものの衰弱の激しいタップを
私の責任だからと言ってアリューシャは自分のレンタルハウスへ連れ帰った。
それからアリューシャの寝ずの看病ですっかり回復したタップだったが、
何故か自分のレンタルハウスに戻らずに彼女の元に留まっていると聞いても
ルナはもちろんリーも驚かなかった。
むしろ女騎士様にいい相手が出来たと喜んでリンクパールを渡したのだった。

「実はさ・・・その・・・あの・・・」
よっぽど言いにくい話らしく、タップはどう切り出せばいいのか迷っている。
「これでも飲んで落ち着いて。」
なみなみとグラスに酒を注いでタップに渡すとルナは自分のグラスに口をつける。
手渡されたグラスをしばらく眺めていたが意を決すると一気にあおり、
たんっと座卓に叩きつけるとタップは言った。
「俺、アリューシャとやったことないんだ!」
含んだばかりの酒を勢いよく噴出すルナ。
「げふっ、げふぅ、何ですって?!」咳き込みながら涙目で睨み付けたルナだったが、
ヤケクソだと言わんばかりに瓶を掴んでラッパ飲みするタップを見て慌てた。
「ちょっ、それ普通のとは違うのよ!そんな飲み方したらっ!」
口が滑りやすようにとアルコール度数の高い物を選んだのがアダになった。
グビグビ飲み干すタップから酒瓶を取り返した時には完璧な酔っ払いが出来上がっていた。

「おりらってぇね〜性欲ぐりゃいあんにょ〜ぉ」バンバン座卓を叩きながら力説するタップ。
胸につかえているものを全部吐き出してスッキリするほうがいいだろうと
「そうだね、うん。」時々相槌を打って、ルナは聞き役に徹している。
タルタルは生殖能力を持たないガルカを除けば他種族よりも性衝動が少ない。
サイズが合わないという物理的かつ致命的な障害もあり、
他種族とのカップルも恋愛感情はあるが身体の関係までには至りにくいという。
女性ならば時間と手間を掛ければ受け止めることもできるが、男性の場合プライドが邪魔するのだ。
「れもねぇ〜おりぇ、たるりゅりゃからぁ」
彼女を満足させられるのか、小さいとバカにされるのではないか、嫌われるのではないか、
そんな思いがぐるぐる回ってタップは苦しくて切なくて仕方が無かった。
それが同種族であるルナには痛いほど分かった。
「だれょりゅいも、あぃしゅてるだぉ・・・」
もう何を言っているのか分からない言葉を残してタップは眠ってしまった。目に涙をいっぱい浮かべて。

タップの肩に毛布を掛け、座卓の上を片付け終わった時、遠慮がちにドアをノックする音が聞こえた。
「開いてるわよ。」ドアを開けて入ってきたのはルナが思っていた人物だった。
長い耳は垂れ下がり済まなさそうな顔でルナを見下ろす。
「タップが来ていないかと思って・・・」
「いるわよ、酔いつぶれて寝てるけどね。でもその顔だと私に用があるんじゃないの?」
「すまない。」
「謝らなくていいから。取り合えず彼をベッドに運んでくれる?」
こくんっと頷くとアリューシャはそっとタップを抱き上げてベッドに下ろし、
愛しいそうに彼の髪を撫でると、目に溜まった涙を指ですくい取った。

愛しているから抱きたい。抱かれたい。
こんな純粋で単純なコトに思いに悩むなど、タルが相手じゃなきゃあり得ないわね、とルナはため息をつく。
「それで、半年も一緒に暮らしてて、全く何もないの?」
「・・・ない。」
「狩りの後とかどうしてるわけ?他の男と寝てるの?」
ルナも冒険者だ。欲望を満たすだけのセックスも否定しない。ただし、同意の上での話ならばだ。
「いや、タップと一緒になってからはしていない。」
それで一体どうやって高ぶった身体を押さえているのか、自分で慰めているのか?
いやそれはなさそうだ、一緒に暮らしていれば気がつくものだし、
じゃあ自制心だけでお互いに半年も我慢しているのか?考えれば考えるほどルナは頭が痛くなってきた。
「それで、どうしたいの?」
「初めてだから余計に自信がないのだと思う。だから、自信を持たせてやりたい。」
その答えは予想外だった。つまり、この幼馴染の女騎士はルナにタップの相手をしろと頼んでいるのだった。
「アリューシャ、本気で言ってるの!?」
「ルナじゃなければこんなことを頼みはしない!」
きつく唇を噛み締める彼女を見てルナは哀しくなった。愛するがゆえの想いが辛かった。
「いいわ。ただし条件がある。」
「なんだってする、言ってくれ。」
「ここで最後まで見ていなさい。」
「!!」アリューシャの顔が見る見る青褪めた。
だが、否とは言えなかった、それが自分の下した結論への罰なのだから。

ベッドは2枚の衝立で囲まれており、座卓の方から見えないようになっている。
アリューシャは直接2人の行為を目にすることはないことに少し安堵した。
もしかしたらタップが断るかもしれない。そんなおかしな期待もしていた。
衣擦れが聞こえる。おそらくルナが衣服を脱いでいるのだろう。
傷だらけで無骨な自分とは違い、華奢で磁器のような美しい肌をしたルナ。
タップと愛し合うことの出来る小さな身体。
想像しただけで嫉妬で目がくらみそうになる。
「タップ・・・ねぇタップ、起きて・・・」誘惑を含んだルナの声にびくっとする。
起きないでくれ!心底自分の愚かしさを呪いながらアリューシャは目をつぶり耳を塞いだ。

「んぁ・・・あぁ、・・・ルナ?」
酔いが抜けきらず、状況が分かっていないタップの唇をルナが塞ぐ。
無防備な口腔にとろりと甘い液体が流れ込んでくる。
「!!?」驚いたタップは思わず液体を飲み込んでしまう。
慌てて肩を掴んで引き離したものの、瞳に映ったのは艶然と微笑む全裸のルナだった。
「な・な・な・なに?なんで?」
「同種族なら何も考える必要はないでしょ。私が慰めてあげる。」
「バカなことを言うなよ!俺はそんなつもり・・・?!」
身体がカーっと熱くなり、タップの男がむくむくと勃ちあがった。己の反応に驚きを隠せず、頭を振る。
「ふふっ、そんなこと言ってもダメよ、ほら。」
つつつーっとルナの細い指がスロップスの上から彼自身を撫で上げると、
痺れるようなむず痒いような快感が電撃のように流れ思わず声が漏れてしまう。
「っあぁ!」
肩を掴んでいた力が緩まったのを感じて、ルナは彼の手を取り自分の乳房へ導く。

「柔らかいでしょう?」
「あ、ああ・・・」
手のひらから伝わってくるルナの滑らかな肌の感触と体温がタップの思考を停止させる。
どくん。どくん。身体中が心臓になったみたいに鼓動が激しくなる。
それに合わせて彼自身もどんどん熱を帯びてくる。
乳房をぎゅっと握ったら、あぁっとルナが甘い声を上げた。
もっと聞きたい。もっとキ・カ・セ・テ
意志とは別に欲望が頭の中で暴れまわる。
ゆるやかな隆起をゆっくりと揉みしだく度にルナの上げる嬌声が意志も溶かしていく。
乳房全体を覆っていた手をずらし、指の間に桜色の突起を挟むとびくんっとルナの身体が跳ねた。
「気持ちいいの?」恐る恐る聞いてみる。
「・・・うんっイイよ、ああぁあっ!」思わず力が入ってしまったのだろう、
強く捻られた乳首から快感の波が走りルナは大きく仰け反った。
一緒にタップの僅かに残っていた理性も弾け飛んだ。そのままルナを押し倒し、唇に吸い付く。
ぎこちなく差し入れた舌をルナが優しく絡め取る。
ルナの舌が歯茎を舐めあげ舌を吸う度にタップのモノは張り裂けんばかりに大きく硬くなっていく。
息が苦しくなって唇を離し、ルナと見詰め合う。
「大丈夫、私が教えてあげる。」
ルナは起き上がると器用にタップのローブをはだけ、すべての着衣を脱がせていった。
「傷だらけね。」そう呟くと彼の背中に腕を廻しチロチロと首筋へ舌を這わせながら、
右手でそっと怒張した彼のモノを握り締めた。
「うぁあぁっ!!」今まで感じたことのない強烈な刺激が全身を駆け巡り、そのまま達してしまった。

「ごめん、ルナ・・・俺、」
「もういい、やめて!」
タップが謝ったのとアリューシャが叫んだのは同時だった。
「アリューシャ?!」
何故ここにアリューシャが?今のを見ていたのか?俺は一体どうなっていたんだ?
ルナがせまって来てアリューシャが叫んでいて俺は裸で、裸?今のって何だ?
アルコールと身体の疼きといきなりの修羅場でタップの心の琴線はぷつんと音を立てて切れしまった。
「約束が違うわよ。これからがいいところなのに。」
「本当にすまない。だけど、やっぱりダメだ。このままだとルナを恨んじゃう・・・」
拳を握り締め項垂れているエルヴァーンの姿が衝立越しに想像できてしまい、やれやれと肩をすくめる。
人形のように微動だにしないタップの耳元に「ごめんね」と囁くと
脱いだ衣服を手に掛けてバスルームへと向う。
さっとシャワーを浴び、新しいローブに着替えて戻ってきても時が止まったように2人は同じ姿勢だった。
ぽろぽろと涙をこぼすアリューシャの顔を両手で挟み、上を向かせると唇を重ねた。
「ひゃぁう?」
喉を滑り落ちていく甘い味に覚えがあった。
「これって・・・」
「あたり。タップにも同じものを飲ませてあるから、後は自分で何とかしてね。」
ルナはいたずらっ子のような顔で言うと背を向け、手をひらひらさせながらドアから出て行ってしまった。

何も聞こえなければ大丈夫だと思っていた。しかし聞こえないことで妄想はとんでもなく膨らんでいく。
覆った両手を外し、耳を欹てる。
ルナの囁きで今何が行われているのか容易に想像できる。
ワザとだ、彼を誘導する振りをしてワザと自分にコトに成り行きを教えているのだ。
本気でルナを憎みそうだった。
想像すれば身体は反応する、しかもルナが痴態を繰り広げている相手は自分の愛しい男だ。
後悔と恥辱と嫉妬に責め立てられ、アリューシャは軽く欲情していた。
そこに即効性の媚薬を飲まされたのだ。
身体が一気に火照る。大事なトコロがジンジンして、湿り気を帯びてくるのが分かる。
熱い、身体が焼けるようだ。とにかく服を脱がなければ。
ああ、違う。タップに事の次第を伝えるんだ、上手く言えるだろうか?
アリューシャの思考は混乱し、自分が何故服を脱いでいるのか自覚もないまま、
ベッドの上で硬直しているタップに近付き肩を揺する。だが、反応がない。
「ごめん、ごめんね。」初心な彼を傷つけてしまった、どうしよう。
ベッドの縁に腰掛けてタップを膝の上に向かい合わせに座らせるとぎゅーっと抱き締めた。
全裸になったアリューシャの胸に顔を埋める形になり、息苦しくてタップは我に返った。
「あ、ありゅーひゃ?くるひぃ・・・」
慌てて腕を緩めるとまだ焦点の定まりきらない目が自分を見上げている。
可愛いっ、もうダメだ、限界!

ぐいっとタップの顎を掴んで持ち上げ、顔を軽く傾げて優しく唇にキスをする。
「こうすれば息苦しくない。」
焦点を結んだ瞳を覗き込みながらアリューシャは再び唇を重ねる。
舌を唇の間から滑り込ませタップの舌を軽く突付くと答えるように絡んでくる。
アリューシャのお腹を熱い質量を持ったものがノックしだす。
くちゅくちゅと水音をたて互いの舌を口腔を味わう。
やがて不慣れなタップの口から溢れた涎に気付いて唇を離すと彼女はそれを舐め取った。
「だめだよ、アリューシャの顔が汚れちゃう・・・」
「お前のものなら何だって愛しいのだ。」
もう自分を偽る必要はないのだから、そうタップの耳元で囁く。
「私はお前の全てを愛している。お前を受け入れたいのだ。だから、だから・・・」
欲情と愛情が合い混ざってアリューシャは言葉に詰まる。
「誰にも渡さない。僕のアリューシャ。これが俺のすべてだ。」
そういうとタップは立ち上がった。
いつもゆったりしたローブを着ているタップ、狩場でも鎧を身に着けている姿を見せたことが無い。
タルタルゆえの防御力の無さを補おうとしないその姿は時に他の冒険者から非難されるが
あの日、モグハウスに連れ帰りローブを脱がせて驚いた。
中に暗黒騎士だけが着用を許される漆黒の鎧を着込んでいたのだ。
タップは己の弱さを知っていた。だからこそ重ね着することで少しでも補おうとしていたのだ。
通常の倍近い装備を支える体力を得るために、どれだけの鍛錬をしたのだろう、
タップの身体はタルタルとは思えないほど引き締まり、無数の傷で覆われていた。

左肩から斜めに走る赤黒い傷跡を撫で擦りながら懐かしそうに呟く。
「タップの身体を見るのはあの日以来だ。」
モーグリと2人がかりで脱がせて、鎧をも貫き通し大きく肉を切り裂いた傷に驚いた。
この傷だけで十分に致命傷になっていたはずなのに。
もう2度とタップの身体に傷は付けさせない、そう誓って脳裏に焼き付けた身体と傷の位置。
「ここも、ここも、ここもだ・・・」ひとつひとつを指でなぞりキスをしながらアリューシャはぽろぽろ涙をこぼした。
それは彼女の記憶には無い傷。そして身体はもっと逞しくなっていた。
「こんなに傷が増えていたのに、半年も一緒にいて気付かなかった、すまない。」
誓いを守れなかったことがアリューシャの騎士としての誇りを切り裂いた。

泣きながらただただ新しい傷をなぞり続けるアリューシャの手をタップが押さえた。
「これは俺の誇りだ。全ての傷に君との思い出が刻まれている。」
かわすのではなく、装備と盾で攻撃を受け止めるナイトは防御力が高いとはいえ、
受ける攻撃が多ければ多いほど確実に傷ついていく。
少しでも早く敵を屠ることが、彼女自身と彼女の誇りを守ることになると分かったから
あの日からタップはアリューシャの矛となり、彼女の背中を見守ってきた。
アリューシャの頬を伝う涙を手で拭うが、後から後から流れ落ちて止まらない。
「涙が止まるおまじない。」ちゅっと音を立てて目じりにキスをする。
「バカ・・・」
「俺はバカだよ。でもこれだけは知ってる。俺が傷付く以上にアリューシャが傷付いていることは。」
そういうと今度はタップがアリューシャの身体の傷ひとつずつにキスをしていく。
もう目を凝らさないと分からないものから、まだ赤く盛りあがった生々しいものまで、
アリューシャが鎧って決して人には見せない素肌に刻まれた戦いの跡を辿っていく。
「やめてくれ、恥ずかしい・・・私は・・・から。」掠れた声で呟かれたので聞き取れない。
「え?何て言ったの?」
「私は・・・きれいじゃない・・・から。」

ルナの柔らかくて滑らかな肌に触れた後だ、きっと比べられる。
筋肉質でごつごつとした身体、他のエルヴァーンよりも小ぶりな乳房にも醜い傷が付いている。
腹も背中も尻も太股も、太刀で切り裂かれ、斧で砕かれ、槍で突かれた傷跡が至るところに散っていた。
騎士としては誇りだったが、女としては恥でしかないと彼女はずっと思ってきた。
「綺麗だよ。この傷全てが騎士の誇りを貫いた証じゃないか。」
はっとしてアリューシャが顔を上げる。
「戦うアリューシャを綺麗だと思った。哀しいまでに一人で戦おうとする魂を愛しいと思った。」
年下の小さな暗黒騎士は、本当の自分を見ていてくれたのだ。
「君が例え手足を失おうがその瞳を失おうが変らず愛し続ける。」
「私もだ。絶望の淵に一人で立つお前の命が愛しい。我が命ある限り愛すと誓う。」

誓いの間にタップのキスの雨は下腹部あたりに達していた。
アリューシャは足を大きく開くと襞を押し開き、濡れそぼる秘所がよく見えるようにした。
「来てくれ。お前が欲しい。」
「俺もアリューシャとひとつになりたい。」
熱く脈打つ彼自身をアリューシャの秘所にあてがうと、ゆっくりと挿入した。

背後でドアの閉まる音を確認するとルナはポケットから小さな薬瓶を取り出し、中身を喉へ流し込んだ。
ハーブの爽やかな香りと味が口いっぱいに広がり、熱を帯びた身体をクールダウンしていく。
素面で幼馴染の彼氏を本人が見ている前で誘惑出来るほどルナは擦れてはいない。
アンフェアだといわれようが媚薬の力を借りるしかなかったのだ。
「少々強引なやり方だったけど、終わりよければすべてよし、ってね。」
自分のレンタルハウスを明渡してしまったからには、今夜の宿を探さなければならないが当てはあった。
手土産の鮮度は抜群、一晩語り明かし朝になったら2人でアリューシャとタップを冷やかしてやろう。
すっかりその気でリーのレンタルハウスにやってきたルナだったが
「ご主人様はしばらく戻らないクポー」とモーグリに言われてがっかりした。
せめて一夜の宿だけでもと思ったのだが、律儀なモーグリたちはそれが主の親兄弟や恋人、
親友であっても主がいない部屋に決して人を入れたりはしない。
タップのように主から事前に話が通っていれば別ではあるが。
「仕方が無い、出直すわ。」と言いかけて、さっきのモーグリの言葉になにやら引っかかるものを感じた。
リーはここ1ヶ月ほどウィンダスに逗留中なのに何故「しばらく戻らない」と言い切るのか。
ドアを閉めようとするモーグリの赤い鼻をぐりぐりと指で押しながら
「しばらく帰らないってことは“あの季節”ってことね。あんたちょっと口が軽いんじゃない?」と脅してみる。
「!!?つ、つい口が滑ったクポー!見逃してクポー!」本気で怯えるモーグリ、当たりだ。
口が堅いのが信条のモーグリ、主のプライベートをうっかり漏らしたとバレたら一族に抹殺されかねない。
もっとも「しばらく戻らない」というのは、予定がはっきりしない冒険者に仕えるモーグリたちにとって
無難で一般的な返事である。リーを良く知っているルナだからこそ気がついただけだ。
「分かった、見逃してあげる。その代わりに今夜は泊まらせて貰うわよ。」
「えええ!それはでき・・・」
「出来ないっていうの?それじゃあモグ協会に通報するしかないわね。」

「止めてクポー!!!!本当に殺されるクポー!!!」
涙と鼻水を流しながら必死で懇願するモーグリを見て少し気の毒になったが
こちらも今夜のベッドが掛かっているのだと心を鬼にする。
「じゃあ交渉成立ね。」
女神の微笑みを浮かべるルナのお尻にデーモン族の尖った尻尾が見えたような気がしたモーグリだった。
「はうぅぅぅ・・・クポ。」
リーの残り香がするベッドに潜り込みながらルナはふっと思い出した。
「あの季節なのにリッツを抱きかかえて行ったのよね・・・ま、別にどうでもいいけど。」
おやすみ〜っとモーグリに声を掛けると直ぐに意識は夢の世界へデジョンしていく。
おやすみクポ、ルナさん酷いクポ、怖いクポ、ご主人様早く帰ってきてほしいクポ・・・
モーグリの泣き言だけがいつまでも部屋の片隅で響いていた。


【愛と欲望の狭間編:了】

ペルソナ陵辱表現有
優しい手陵辱表現有
迷い道陵辱表現有
消せない罪陵辱表現有
迷い道・番外編/マーガレット
番外編/ここにしか咲かない花