←灰色の魔道士
←愛と欲望の狭間
←ペルソナ陵辱表現有
←優しい手陵辱表現有
←迷い道陵辱表現有
私が私で無いときに
私が犯した罪は
私のものではないはずなのに
身体がその罪を覚えています
他人がその罪を覚えています
その罪は私のものだと責めます
私は償わなければいけないのでしょうか
この罪は消えないのでしょうか
シェリリとフェルディナンドがセルビナを旅立った3日後、
針のような細い細い月が西の空に沈む頃
『暁の疾風』号からフラガラックの元に訃報がもたらされた。
最後まで船と共にあると言っていたとおり、彼は東方へと向かう航海上で息を引き取り、
兼ねてからの希望のまま水葬に附されたという。
聞いたままをルナに伝えると、
フラガラックは戸棚の奥から1本のロランベリー酒を取り出し
「行ってくる」と一言残して家を出て行った。
それが秘蔵の1本でテオドールと飲むためだけに開けられることをルナは知っている。
「いってらっしゃい」
夜の海に漕ぎ出し、友と最後の乾杯をするのだろう。
ガルカを見送ったルナは青いチェニッカを脱いで連邦軍師服一式に着替える。
ウィンダス所属の冒険者である以上、正装といえば連邦軍師服しかなかった。
白い宝玉が嵌った杖を手にゲートを出て海岸へと向かう。
無茶をする駆け出しの冒険者も夜道を急ぐ盗賊もBogyやGhoulさえもいない静かな夜だった。
砂浜を横切って真っ直ぐ海へと歩を進め、腰まで波を被る位置で止まった。
海水は冷たく愛した男の温もりには程遠かったが、それでも抱きとめてくれたような気がした。
大きく息を吸い込みよく通る声で祈りの言葉を紡ぎだす。
アルタナ女神を信奉してはいないが、魂を送る言葉は知っている。
打ち寄せる波が身体を濡らし体温を奪うのも構わず
全身全霊をかけて海の底に眠る男へ最後の睦言を届けた。
やがて長い長い詠唱が終わってもルナはその場から動かず、
波が容赦なく身体を持ち上げ、沖へと引き摺りこもうとしても抗わなかった。
このままテオドールの元へ私を運んで…
ゆらゆらゆら。
波にさらわれた身体が揺れる。
ゆらゆらゆら。
薄れゆく意識が呼び覚ましたのは遠い島での記憶―――
アリューシャとリーが13歳になると長老は本来の1戸につきひとりという規約を曲げて
彼女たちにも男の相手をさせるようにとルナに詰め寄った。
島に寄港する男たちは当然若い女を抱くことを望む。
しかしどの家も、特に母親が見ず知らずの男たちに娘が買われることを嫌がり、
自らその役目を被っている場合が多いので娼婦役の女たちの年齢は高くなってしまう。
そこで長老はルナの妹たちに目をつけたのだ。
「お断りします」
「いや、しかし島の決まりじゃから」
「妹たちには何の義務もないでしょう?」
「拾ってやった恩ぐらいは…」
「あの子たちを引き取って育てたのは私です。もし妹たちもというなら今後薬は作りません」
「…むむっ」
ようやく長老はルナがただの小娘でなくなったことに気が付いたのだった。
初潮を迎える前に飢えた男へ贄として投げ与えられた身の上を振り返る程、
妹たちを同じ目に会わせる訳には行かなかった。
特に気がかりなのはリーのことで、もうそろそろ初めての発情期を迎える年頃なのだ。
ミスラの生態には特殊な部分があり、他種族では理解できないこともある。
島にはリー以外ミスラはいない。
何も知らないまま発情期に入ってしまったらリー自身が一番戸惑うだろうと
テオドールに相談してみたことがある。
『暁の疾風』号にはミスラの船員も数人いたので話を聞かせてもらう事が出来たが、
それはルナを怯えさせるに十分な内容だった。
曰く。
初めての発情期は3日程で、微熱、身体の火照り、倦怠感などがあり、
風邪でも引いたと勘違いして安静にしているうちに終わる事が多い。
ただひとつだけ気をつけないといけないことがある。
それは男と交わることだ。
初めての発情期を迎える未熟なミスラにはあまりにも刺激が強すぎて狂ってしまい、
雄を求めるだけの獣になってしまうという。
雄を求めるだけの…
その姿をルナは何度も見た事があった。
己が作り出した媚薬に酔い痴れる女たちだ。
薬ならば効果が切れれば元に戻るが、狂ってしまえばそれまでだ。
リーを男どもの快楽の道具、意思も尊厳も踏みにじられた獣になどしてたまるものか。
長老がルナの懐柔に失敗したと知って苦々しく思う者がいた。長老の息子だ。
この男、いずれ長老の後を継ぐものとして好き勝手が許されていたが、
実のところ貧しく小さな島の裁定役には興味がなかった。
あるのは父親の財産だけだ。
遺産を手に入れたら島を捨てるつもりだが、金はいくらあっても邪魔にはならない。
父親には死ぬまでにたんまり溜め込んでもらわないと困るのに、
金のタマゴを無限に産むガチョウを上手く利用できないことに苛立ちが隠せない。
「あんな小娘、ちょいと脅かせばいいじゃないか」
そうだ、簡単じゃないか。
親父がやらないなら俺がやればいい。
妹2人を人質にすればあの小生意気な娘も俺に従うだろう。
タルタルってやつは抱く気にはならないが、ミスラと同族の小娘は欲しい。
2人とも俺のペットとして可愛がってやろう。
くっくっくっ
男の口から邪な笑いが漏れた。
長老との一件があった数日後。
急病人がいるから来て欲しいと言われルナは迷っていた。
昨夜からリーが風邪のような症状を訴えているのだが、
本当に風邪なのか、それとも初めての発情期が来たのか判断がつかないでいた。
アリューシャは元騎士の家に剣を習いに行っておらず、
リーがひとりになることに対する奇妙な不安が拭えない。
「心配しなくてもいいです、大したことありませんから」
そういうものの頬は赤く耳もヒゲもへにゃりと垂れている。
やはりアリューシャが帰ってからにしようと決めたのを見透かしてリーが言う。
「行ってください、ルナ」
「本当に大丈夫?」
「寝ていれば治ります。ただの風邪ですから」
風邪だと分かったならこんなに心配しないわよ、と心の中で溜息を付きつつ
ルナは急き立てる男の後を追いかけた。
先を行く男が港の外れにある憲兵詰所に向っていることにルナは気がついていた。
タブナジアが滅びた時に島は流刑地としての意味を失い、今は使われていない廃屋だ。
「ねぇ、ちょっと。この先には詰所しかないでしょ?」
その言葉には疑う響きがあり、男は動揺したように立ち止まった。
危険、危険。ルナの頭の中で警報が鳴り響く。
逃げよう。
答えを弾き出すと同時に元来た道へと走り出した。
「勘のいい小娘だな!」
いくらも戻らないうちに路地からバラバラと男たちが飛び出してきて取り囲まれてしまった。
過疎の島とはいえ港付近には常に誰か人がいる。
助けを呼ばれる前に男たちはルナの口を塞いで抱えあげ詰め所に駆け込んだ。
島全体が牢獄のようなものなのだが、詰所には危害を加えそうな危険人物や
島で犯罪を犯した者を繋いでおく地下牢もあった。
錆ついた扉を無理やり開けて男たちはルナを黴臭い牢の中へ転がした。
鍵はとうの昔に使い物に成らなくなっていたから、閉じ込めることが目的ではないようだった。
形ばかりに扉を閉め、男たちはその辺にあった椅子を引っ張り寄せるとルナに背を向けて座った。
ちらりと見えた顔はどれも見知ったものばかりだ。
「いったいどういうことなのか説明してもらえる?」
ルナには浚われる理由がさっぱり思い当たらないのだが、男たちは答えてくれない。
理由には心当たりはなかったが、男たちのリーダーが誰であるかは簡単に想像できる。
長老の息子だ。
「埒が明きそうにないわね。あなたたちのリーダーはどこ?」
ギクリッ、という音が聞こえそうなほどあからさまに男たちは動揺した。
長老の息子が若者たちをいいように使っていることなど島の者なら誰でも知っているのに。
「リ、リ、リ、リーダーって?」辛うじて返って来た声は情けないほど裏返っている。
「いないの?」
オドオドと視線を彷徨わせているルナを呼び出した一番若い男と目が合った。
「………い、いな…い。そうさ、いないよ、あいつは今ごろお楽しみだからな!」
「俺たちは貧乏クジばっかりさ!」
「なぁ、俺たちもいいんじゃないか」
「……まだ子供だぞ」
「成人したってあのままさ。子供だと思わなきゃいいんだ、客だって取ってるんだし」
ルナを見る男たちの目からは後ろめたさが消え欲情の炎が燃えていた。
島を訪れる客は性的嗜好の差はあれ大抵はエルヴァーンの女性を抱きたがるものだし、
ルナを望むのは同族か幼児性愛者ぐらいでレアケースだ。
何よりテオドールというパトロンがいるルナを長老は彼なりに気遣っていたから、
実のところルナはそれほど多くの男を知っている訳ではない。
欲情している?!
そのために浚われた訳ではないと高をくくっていたルナにはショックだった。
何がきっかけで彼らが豹変したのか分からないことも恐ろしかったが、
これから何をされるのか分かっているだけにそちらの方が怖い。
逃げ場所を求めてルナはランプの明かりが届かない牢の奥へと後じさりする。
視界から外れれば彼らが狂気から醒めるのではないかと期待して。
男たちは無言で見詰め合った後、ルナを呼びに来た男を前に押しやった。
怯えるルナに同情するどころか薄笑いを貼り付けて
ずかずかと牢に入り逃げようとするルナの頬を力いっぱい叩いた。
小さな身体は壁まで飛ばされ背中からぶつかる。
「ぐっ」
痛みにうめくのも構わずに若い男はルナの右手を掴んで持ち上げ
ワンピースの衿から一気に下着ごと引き裂いた。
裂けた生地の下に見え隠れする下半身の布キレも引き降ろす。
「いやぁ!」
身を捩ってなけなしの布切れをかき合せようとするルナを
まるでウサギか何かの獲物のように仲間たちに向かって掲げて見せた後、
牢から連れ出し古いデスクの上に放り出した。
身体を丸めて痛みを堪える間もなく数本の手によって四肢を拘束される。
もちろん下半身が露わになるように足は大きく開かされていた。
「15なのに生えてないんだな」
「こんな小さいのに男を何人も咥えこんでるんだぜ」
男たちが曝け出された秘所を覗きながら笑う。
「そう言えばお前、女を知らないんだったな」
ひとりが先ほどの若い男の肩を押えて付けてルナの秘所の前に顔を突き出すように座らせた。
「先にやらせてやるよ」
下卑た笑い声と共に他の男たちからも「やれやれ」と囃し立てられ、
若い男はおずおずと目の前にある裂け目の奥に指を突き入れた。
「くっ…」
ルナは苦痛に顔を歪めた。
恐怖で強張っている上に潤ってもいないのだ、痛いに決まっている。
しかし男はそんなことはお構い無しに機械的に指を出し入れするだけ。
そこにルナは小さな希望を見出す。
男たちを喜ばせてやる義理も必要もない、
この男が自分の身体から快楽を呼び起こすことが出来なければ
他の男たちの興味も削がれるのではないだろうか。
ルナは痛いだけの行為から注意を逸らし、
万が一にも身体が反応しないように頭の中で錬金術のレシピを1から暗唱し始めた。
時折苦痛に身を捩るもののルナが一向に受け入れる気がないことに焦れていた年長の男は
ふとデスクの端に寄せてあった酒瓶に目を止めにたりと笑った。
「気を逸らしてやり過ごそうなんて甘いんだよ」
そう言うと男は酒瓶の蓋を外しルナの腹に中身をぶちまけた。
丸い腹を滑り落ち、酒は膨らみのない胸や股まで流れいく。
「何するんだ、勿体無いじゃないか」
「聞いた事があるんだよ、下の口から飲ませると効くってな」
年長の男はルナを責める男の手にもたっぷり酒を注いだ。
ささやかな抵抗もあっさりと見破られてしまったと思う間もなく
酒で濡れた指が挿入されてルナは飛び上がった。
「いっ、いったぁいーーーーーーーっ!」
擦られ続けた柔らかな粘膜に付いた傷に酒が染みたのだ。
元々敏感な部分だからその痛みは尋常ではなかった。
「いやぁ!痛い痛い痛いぃ!やめてぇーーー!」
絶叫を上げて身を捩る姿に驚いて若い男は手を止めたが、
誰かが耳打ちすると中を探るようにやわやわと動かし始めた。
激痛が治まると同時にルナは強張っていた身体から力が抜けていく。
欲情とも媚薬とも違うふわふわとした感覚。
何だか頭もくらくらする。
そして信じがたいことにルナの身体は男の愛撫を受け入れていた。
下半身から聞こえる水音が大きくなり、意志とは関係なく腰がくねる。
「ほら効いてきた」
酔いが回った身体が火照ってうっすらと赤みを帯び、
平らな胸の先端が存在を主張しだすと男たちの手があちこちから伸びる。
乳首をこね回し摘み上げる手。
ぷっくり膨れ上がった豆粒を剥く手。
膣を弄る手。
その下の窄まりにも指が侵入する。
同時に敏感な部分を刺激されてルナは堪らず声を上げた。
「…っ…ああっ!いやぁっ…」
もはや悲鳴ではなく甘い艶を含んでいた。
嬌声が漏れる度に男たちの手が指が執拗にルナを嬲る。
「子供みたいな成りして淫乱だな、尻までびちゃびちゃだぜ」
「客にやるようにもっとケツを振って見せろよ」
まだ抵抗の意志を残していることを知っていて
卑猥な言葉で辱めるがルナには聞こえていない。
湧き上がる快楽の波を何とか逃がそうとしても拘束され複数に責め立てられては
何度も飛びそうになる意識を繋ぎとめ、飲み込まれまいと抗うので精一杯だった。
我慢しきれなくなった男たちがさっさとしろと膣を嬲っている男を促し手を引っ込めた。
責めが止みほぅっと気を抜いた無防備な状態でデスクの縁まで引きずられる。
「つぅ…」
快楽の波が引いた身体に走る痛みが意識を強くした。
1対1なら気をやらない方法は身体が覚えている。
何とか意識を失わずに済みそうだとルナはこの状況で再び見出した希望に縋り付く。
ズンと肉の楔が打ち込まれる。
「ぅんっ…あぁっ…!」
襞を掻き分け擦りあげる感覚に思わず声がでるが、意識はハッキリしている。
快楽を受け入れる振りをしながら腰を動かし男を締め上げた。
タルタルの狭い膣はそれだけで強烈な快感をもたらすのに、締め上げられては堪ったものではない。
ましてや初めてなのだ。あっという間に登りつめてしまう。
「うくっ、ああっ、だめだ出るっ!」
どくどくと生温かい液体が中に吐き出される感覚がおぞましい。
「終わったらどけよ、後が支えてるんだ」
「あ、ああ…」
ぐったりした若い男を押しのけて年長の男がルナの腰を抱え上げた。
「あんなに早くちゃ物足りないだろ?」
欲情した醜い顔が迫り、ルナは思わず顔を背けた。
「強がっても無駄だぜ」
まだ前の男が放った精が垂れ落ちる膣口に怒張した肉棒を宛がい
耳に舌を這わせながら男が囁く。
一気に押し入りはせず円を描くように襞を抉じ開けるように少しずつ進める。
「くくっ、さすがに狭いな」
女の扱いに慣れているらしく先ほどの男のような性急さはない。
ゆっくり分け入りながら、ルナの最も敏感な箇所を探っている。
それを察してルナも男を追い詰めようとする。
「そんなに焦るなよ」
びくん、とルナの身体が跳ねた。
男のモノついに全部入り最奥を突き上げたのだ。
「ここか、ここだなっ!」
「ぁあああぁあっ!!!ぃやぁぁあ…っ」
「いい声だ、もっと鳴け」
男はルナの中を捏ね回すように腰を突き上げる。
「…ぃ、いやぁぁあっ、そ…そこはぁ…だ、だめぇ…っ!!!」
意志の力で押し込めていた欲望の蛇がぬらぬらと全身を嘗め回しながら這い上がってくる。
痺れるような甘美な誘惑。
腰は意志とは関係なくいやらしくくねり、もっと快楽を貪ろうとする。
飲み込まれそうになる意識をルナは歯を食いしばって呼び戻した。
「はぁ…はぁ…」
自分自身でも分かっていた。
次に強烈な刺激がくれば意識が飛んでしまうだろう。
込み上げた恐怖を糧にルナは力を込めて男を締め上げた。
「くそっ、まだ正気を保ってるのか!」
年長の男は自らを慰めていた残りの男たちに声を掛ける。
「お前らもやれ」
待ってましたとばかりに男たちは小さな獲物に群がった。
片手で己自身を扱きながらふくらみのない乳房に舌を這わせ乳首に吸い付き耳を嬲る。
当の男も腰を抱く手を離し、剥き出しになったクリトリスを激しく捏ねくり擦りあげる。
「あああぁぁっあぁっ!いやっ、いやぁぁああっ!い、いい、いっちゃぁ…ぅ」
「さっさとイっちまえ!今頃お前の妹たちもぐちゃぐちゃさ!」
欲望の蛇が鎌首をもたげ最後に残った僅かな意識に喰らいつこうとした瞬間、
耳を疑うような言葉がルナを打った。
若い男が言っていたリーダーのお楽しみって…
「ま…ま、さかぁ…んぁ…っ」
まともな言葉ひとつ言えず声は喘ぎになる。
「あいつはタルはいらないって言ったけどよ、こんなにいい具合だとは思わなかったぜ」
「でもよう、俺はミスラとやってみたいぞ」
「俺はエルの小娘が好みだな」
「そのうち俺たちにもまわしてくれるさ」
嫌らしい笑い声がガンガン頭の中で響く。
「いやぁああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
快楽が湧き上がる更に奥からマグマのように赤く熱く燃えたぎる炎が立ち上がり、
欲望の蛇と共にルナの意識を焼き尽くした。
行為の余韻に惚けていた若い男は何が起こったのか理解出来なかった。
男たちが炎に包まれて床を転がり苦痛に呻いている。
デスクの上で起き上がった娘がこちらを向く。
あれだけ泣き喘えぎ乱れたはずなのにそんな気配は微塵も無く、
透き通るような白い肌に灼熱の炎を纏う姿は神々しいとさえ思えた。
「もう一度聞くわ。あなたたちのリーダーはどこ?」
「あ…あ…あの…」
「どこなの?」
娘を取り巻く炎が大きく膨れ上がり、男を捕らえようと伸びる。
「ううう、上の部屋…」
「ここにいるのね?」
腰が抜けて動くことも出来ない男はこくこくと頷いた。
娘がデスクから飛び降りて男たちを振り返りもせず地下から出て行っても
その場で呆然としていた若い男は
転がり落ちて割れた酒瓶から漏れたアルコールに
男たちを焼く炎が引火したことにも気がつかなかった。
詰所は憲兵たちの宿舎も兼ねていたから、上の部屋とはそのうちのどれかだろう。
「近寄らないで!!!」
ルナが2階へ上がりきる前にリーの絶叫が聞こえた。
ガシャン、ドスンと物が壊れたりぶつかったりする音に続いて男の怒鳴り声がする。
「このくそ猫がっ!何しやがるっ!!!」
「あなたのような獣に猫呼ばわりされる覚えはないですっ!」
「ご主人様に対してペットが口答えするなんて躾し直さなきゃならないなっ」
「誰がペットなんですかっ!あっ離してっ!!」
まだリーが無事なことは分かったものの事態は切迫しているようだ。
ルナは声の聞こえる部屋のドアを炎で吹き飛ばした。
勢いのついた炎が部屋の絨毯やカーテンを焦がす。
「な?お前なんで…ははっ、そうか、あいつらに…」
全裸のルナを見て地下で何があったか悟った男だったが言葉が続かなかった。
ルナの目は静かに怒りに燃えていた。
瞳そのままに炎がルナを取り巻きごうごうと音を立てて燃え盛る異様な光景に息を飲む。
「お、お、お前…」
「アリューシャは?」
「ルナ?ルナなの?アリューシャはここにはいない!まだ帰ってなかったから」
「リー!そこでじっとしてなさい」
ルナのただならない気配にリーは頭を庇うように枕を被って蹲った。
「あなたの目的が何なのかなんてどうでもいい。ただ、リーに手を出そうとしたことは許さない」
「ゆ、ゆるさないって…お、俺に逆らったら島じゃ生きていけないぞ!」
「それが何?」
男とにとって最大で絶対の切り札はあっさりと切り替えされた。
ゆっくりとルナが手を上げる。
「その身で己の罪深さを知るといいわ」
それはファイアIVクラスの炎の矢弾だった。
悲鳴を上げる暇も与えずルナの放った炎は男を焼き尽くした。
暴れ狂う炎は男だけでは飽き足らず部屋を飲み込み、
地下からの火の手も加わって詰所は日が落ちるころには焼け落ちた。
地下から辛うじて逃げ出した男たちに事情を聞いて悪いのは自分の息子だと分かっていても
長老は黒こげの塊を前にルナを詰らずにはいられなかった。
「この化け物め!息子を返せぇ!!!!!」
「…この男の罪はその命で贖うほどのものではないというのね?」
「いずれは男を知るんじゃ、遅いか早いかの違いじゃろう、相手が息子では不満なのかっ!」
「それは男の勝手な理論よ。見知らぬ男に蹂躙される女の気持ちがあなたに分かるというの?」
出来はどうであれ愛する者を失った哀れな老人をこれ以上追い詰めるつもりなどルナには無かった。
「間に合うといいけど」
そう呟いてすぅっと息を吸うと長い長い詠唱を始める。
その場にいた者たちにはルナが何を始めたのかさっぱり分からなかったが、
アリューシャの師である元騎士は思わず感嘆の声を漏らした。
「あれは最高位の蘇生魔法だぞ。修行もなしに習得したのか。なんて娘だ…」
何とか息を吹き返したものの長老の息子は寝たきりとなり、
他の男たちも大火傷を負い、年長の男などは男性として一生使いものにならなくなった。
今や島中の人間がルナと妹たちを白い目で見る。
ルナとていずれは島を出るつもりだったから未練は無い。
ただ島を出ればアリューシャにもリーにも親の故郷に肉親がいるだろうから
一緒に暮らすことができなくなることが寂しかった。
せめてもの償いに貯めていたお金から火傷を負った男たちの家族に見舞い金を支払い、
東方からの帰りに寄港した『暁の疾風』号に乗って見送る者のない島を離れたのだった―――
こつんこつんと船に何かが当たっている。
フラガラックはグラスを置き、暗い水面に目を凝らして驚いた。
「ルナ!?」
波間を漂うルナの身体を急いで引き上げ、
口に手をかざすと微かに息をしていたので取り合えずほっとする。
フラガラックにはルナの性格からこういうことになった経緯が大方予想できた。
「最後の最後までルナを俺の元に置いていくんだな」
残りの酒を海に注ぐ。
「すまん」という友の声が聞こえたような気がした。
意識の戻らないルナを家に運び込んだフラガラックは、
ずぶ濡れの服を脱がせタオルで身体をきれいに拭い、
毛布で包んで一旦ベッドに寝かせ、
暖炉に火を起こして大鍋に湯を沸かし始めた。
湯が沸くまでにタルタルが余裕で入るサイズのタライを引っ張りだし、
ルナが錬金術の素材をストックしている戸棚から
カモミールやラベンダーなど数種類のハーブを選んで鍋に放り込む。
ハーブの優しい香りが漂うころには部屋も暖まってきた。
タライに湯を注ぎ入れ湯加減を確かめてから、
まるで赤ん坊を風呂に入れるようにそうっとルナをつけた。
冷え切り透き通るように真っ白だった肌が桜色になってようやくルナは目を開けた。
「あんまり気持ちいいからてっきり天国だと思ったのに、ガルカがいるんじゃ違うわね」
「残念だがその通りだ」
「…また置いていかれちゃった、これで3度目よ」
ルナが哀しげな微笑を浮かべる。
「ああ」
その顔を見てルナが本気で死にたがっていた訳では無く、
ただ連れて行って欲しかっただけなのだと確信する。
「これすごくいいわね。タルにぴったり。モグハウスに持って帰ろうかな」
この話はお終いとでもいう風にルナは明るい声で即席のバスタブを褒める。
実のところモグハウスのバスタブはガルカに合わせてあるのでかなり大きく、
たっぷり湯をはるとタルタルが溺死しかねない危険な代物なのだ。
「気に入ったなら持って行くといい、それより温まったなら早く着替えろ」
「ガルカとタルなんだもん、欲情も何もないでしょ」
「それなんだが…」
冗談だったのに予想に反して真剣な調子で切り出されルナは戸惑う。
「思うにお前には男を魅了する魔力がある」
「はぁ?!」
「相手がお前を女だと認識した瞬間に豹変したことはないか?」
「あっ…」
いちいち話すのも面倒なぐらいあった。
フラガラックはルナが意識を取り戻すまでのことを話し始めた。
身体を拭いていれば嫌でも微かに膨らむ乳房が目に入る。
ルナも女だったのだと認識を新たにした途端、腹の奥底を探るような気配がした。
一瞬の出来事だったが、遥か昔に忘れてしまった何かを呼び覚まされたような
もやもやした奇妙な感覚はしばらく抜けなかった。
ガルカであるフラガラックは生殖能力を持たない故に性欲がどういうものか分からない。
だが、もしかしたらあれが性欲なのかもしれないと思ったのだ。
種として性欲を持たないガルカにすら擬似的な感情を呼び起こすのだとしたら、
他種族の正常な男ならどうなるか容易に想像できる。
「それともうひとつ気になる事がある」
「もう何を聞いても驚かないわよ」
「これも俺の推測なのだが、お前には何かがいる。守っているというべきかもしれないが」
服を脱がせた時、全身に燃えるように赤い痣が浮き出していて
まるで炎の翼を持つ鳥がルナを抱きかかえるように見えたのだと言う。
「おそらくフェニックスだ。一族の遺跡に描かれているのを若い頃に見たことがある」
「フェニックス?随分昔に滅んで、今ではアストラル界にも存在しない伝説の霊獣のこと?」
「そうだ」
「そんなまさか、それに痣なんてどこにも無いわよ」
ほうら、と背中を見せる。
「お前が命の危機に晒されたり意識を失っている時にしか出ないのだろう」
あんなにくっきりと浮き出ていた痣はルナが意識を取り戻す前にきれいに消えてしまったのだ。
「島を出るきっかけになった話、覚えてる?」
「それがどうかしたのか」
「私ね、気を失ってから翌朝までの記憶がないの」
「その割には内容に矛盾は無かったと思うが」
「後でアリューシャやリーに聞いたのよ。
今ですらレイズVなんて難しすぎて詠唱できないのに…
でも、私が意識を失っている間、他の何かが私の代わりにしたのなら…
それがフェニックスだとしたら可能じゃない?」
「ふむ、有り得ない話ではないな」
「ただ本当に私の中にフェニックスがいるのかどうか分からないけどね」
くすっと笑ったもののルナの表情は冴えない。
「生まれつき不思議な力があったのだろう。全ての謎はお前の出自に係わっているのではないか?」
「私の中にいる霊獣…」
冒険者になってからあらゆる手を尽くして自分の出自を探そうとしたが徒労に終わった。
自分の中にその答えがあるかもしれないとは思いもしなかったルナだった。
了
※アルコールを膣や肛門に注入するのは危険です。あくまでもファンタジーとご理解ください。
※ルナを嬲るエロバーンは脳内変換でお好きなキャラを当てはめてください。
→迷い道・番外編/マーガレット
→番外編/ここにしか咲かない花