ベルーシxジール
ベルーシxジール2
ベルーシxジール3
ベルーシxジール4

ジール:ミスラF5a
ベルーシ:F7a
リリン:ミスラF8b
アックスアーム:ガルカF1a

サンドリア王国の、とある民家。
質素な暮らしを強いるこの国にとって、多少の寒さや飢えは仕方のない事。
貧富の差も激しく、王国の設立した騎士団に入らない限りには豊かな生活は見込めない。
上流と下級の差・・・それは伝統を重んじる国程、大きくなる。
僕の生まれは、後者の方だった。
塀に囲まれた空は重苦しく映り、雲は空を漂うただの飾り。
星は威圧的に瞬き、月は妖しく輝き、全てを青白く照らす。
王族の住まう城は冷たく重くそびえ、大聖堂は神の名の元に金品はおろか、人々の血まで絞りとる。
僕はこの国に生まれながら、この国が大嫌いだった。
下らない誇りを掲げ、今起こっている現実すら見つめない。
他種族を見下し、蔑む傲慢な精神・・・全てが嫌いだ。

そんな折だった。

「ベルーシ、そろそろ塀の外を見てみるかい?」

母さんが僕にそう言ったのは、僕が13歳の誕生日を迎えた時だった・・・・。

王国と言う名の枷から解放され、僕にとっての世界は色を変えた。
太陽は暖かく、眩しかった。
空はどこまでも広く青く、雲は流れてゆき、風は木々の声を聞かせる。
夜空に瞬く星はまばゆく煌き、咲き誇る月は美しかった。

母さんは夜になると、亡き父さんとの思い出を語ってくれた。
肖像画でしか残っていない、僕の父。
父さんはサンドリア国の近衛騎士で、とても強く、雄々しかったらしい。
出会いのきっかけは、冒険者である母さんが、騎士団連中が偉そうに肩で風を切って歩いているのが気に食わなかったらしく、喧嘩をふっかけた事からだったそうだ。
「冒険者になって駆け出しだと言うのに、無茶したわ。」
と、母さんは照れくさそうに微笑んだ。
結局、新米騎士を三人程倒した後に父さんが来て、あっさり負けたと言う。

それから数日後、宿屋で休んでいた母さんのもとに父さんが推参し、
「貴方は豪気な女だ、気にいった! 私と交際してくれぬか?」と、言ったらしい。
それからと言うものの、サンドリアに帰る度に父さんと母さんはデートを繰り返したと言う。
チョコボの免許を取得し、世界各地を見て回り満足した母さんはようやく父さんと結婚した。
父さんは騎士団を辞め、冒険者となり、母さんと共に世界の名景を探し回ったと言う。
それからしばらくし、母さんが僕を身ごもった。
母さんの冒険者生活はここで幕を下ろした。

そして僕が生まれる三ヶ月前に、父さんは亡くなったと聞いた。
ダボイにて捕らわれた、騎士団時代の友を助けるために、戦いに赴き、逝ってしまったと言う。
その出発間際に、父さんがこう告げた。

「子の名はベルーシ。男でも女でも、使える名であろう。」

僕は亡き父を想い、意志だけは継ごうと決心した。
「母さん、僕、大きくなったら騎士になるよ。父さんみたいな、立派な騎士に。」
・・・子供心に、決心した事をまだ記憶している。
夢と現実の区別がつかない子供の一言だったのかもしれない。
けれども母さんは、
「ああ、あんたならきっと良い騎士になれるよ。私と父さんの子なんだから。」
そう言いながら、僕の頭をくしゃくしゃにした。
嬉しそうな母さんの顔。
僕は照れ笑いを浮かべる。
明日が母さんの命日となる事は、この時は予想だにもしなかった。

ラテーヌ高原で、それは起こった。
母さんは冒険者としてのブランクを置きすぎた事と、オーク達が昔に比べて遥かに強くなっている事と相俟って、母さんは複数のオークに囲まれ、遅れを取った。
僕は母さんの指示通り、物陰に隠れていた。
母さんの持っていた剣が、払いおとされる。
四肢を捕まれ、身動き出来なくなる。
僕は叫び出して、飛び出したい衝動に駆られた・・・しかし、母さんのするどい視線を投げられ立ち止まる。
『隠れてなさい。』
そう言いたいのだけが、伝わった。
母さんの着ていた装備が引きちぎられる。
一瞬で母さんは全裸にさせられた。
オーク達が、よだれを垂れ流し、グヒヒッと笑う。

僕は金縛りにあったかのように動けなかった。

オークが下着を脱ぐと、その股間には赤黒い芋虫のような器官があった。
天に向かってそそり立つソレは、母さんの手首から肘くらいの長さ、太さはある。
母さんは「やめて! いやぁぁ!!」と叫び、もがく。
しかしオーク達に抑え込まれ、動けない。
そして、
「あ、うああああぁーー!!」
母さんの絶叫が、辺り一面に響きわたる。
オークの赤黒いそれが、母さんの股に刺さる。
ぶしゃっ、と裂けた股間から鮮血が舞う。
オークは構わず、腰を前後にへこへこと動かす。
その度に母さんは叫び声をあげ、髪を振り乱す。
オークは恍惚とした表情を浮かべ、容赦なく動いている。

母さんが、死んじゃう。

僕は恐怖に震え、尿を漏らした。

オークがひときわ大きな叫びを上げると、ようやく母さんから赤黒いそれを引き抜く。
赤い血と共に、白い粘ついた液体もこぼれていた。
更にさっきとは違うオークが、母さんの足の間に入る。
また下着を取って、赤黒いそれを出す。
母さんに刺す。
母さんがまた叫ぶ。
オークが母さんを刺す。
母さんが叫ぶ。
幾度となく繰り返す後に、母さんの声は徐々に小さくなっていった。
母さんはもうオーク達に抑えられる事はなく、人形のように、だらりと力無く倒れている。
まだオーク達は母さんを刺し続けていた。

何回も、何回も。

不意に、ボォン!! と言う轟音が響きわたる。
母さんを刺していたオークの頭が粉々に吹き飛ぶ。

「このオークどもがあぁぁっ!!」

怒声、そして立て続けに轟音が響きわたる。
その度に、オークの頭部は吹き飛び、横たわる。
音のした方を見ると、バストゥークの青い礼服を着た一人のガルカが立っていた。
その手に、銃を握り締めて。
数分もしない内に、束はいたオーク達は全滅した。
ガルカは母さんのもとへと走り寄る。
「・・・ダメか。」
その一言に、僕はその場に座り込む。
「何者だ!」
僕の立てた物音に反応し、ガルカが銃口を向ける。
しばらくし、標的が動かない事を悟ると、ゆっくりと近付く足音が耳に入ってきた。
僕の心は虚ろとなり、今起こった事が現実なのか夢なのか、区別がつかなかった。
しかし、風に乗って運ばれてくる硝煙と血の匂いが事が現実だと言うことを知らせる。
「・・・あの女性の子か?」

もうー
何も頭に入らなかった・・・。

「つっ・・・・。」
鈍く重い頭痛に、眼が覚めた。
身体がだるい・・・瞼が腫れ、むくんでいるかのようだ。
唇もヒリヒリして、熱持っている。
脛と、腕が重いのはそこの部位の装備を外してないから。
あとの部位は部屋のそこら中に乱雑に投げられていた。
・・・昨夜、酒に溺れて帰宅し、そのまま眠ったのだろう。
鉛のような四肢をどうにか動かし、ベッドから起き上がる。
テーブルに置かれた水を一口飲み、アルコールで焼かれた喉を潤す。
「ふぅ。」
水の冷たさが胃から広がり、身体全体を徐々に覚醒させる。

嫌な夢を見た・・・まず最初の思考はそこだった。
母さんが陵辱されながら、殺された時の夢。
何も出来ない自分が悔しかった。
オーク達が恐かった。
母さんを解放してくれたガルカの強さが羨ましかった。

あの後、僕はバストゥークの大使であった彼に引き取られ、バストゥークで暮らす事となった。
突然の異国での生活、習慣・・・全てがサンドリアと違った。
目の前で母親をなぶり殺された僕を、バストゥークは暖かく迎え入れてくれた。
思春期を異国で迎え、青年となる頃にはすっかりこの国に馴染んでいた。
当時、バストゥークにエルヴァーンが居る事は珍しかったせいか、異性からも同姓からも、かなりもてはやされた記憶がある。
だがそれは珍しいだけと言う理由の人望であり、僕は見せ物小屋の客寄せ愛玩動物になった気分だった。

僕は冒険者となる事を国に申請した。
何故かは解らない。
だが、時折沸く憎悪の嵐に、呑まれそうになる僕は、その感情を発散させねばならなかった。
冒険者となり、しばらくした時。
パルブロ鉱山で暗黒騎士のガルカから、重い両手剣を手渡された。

ーこの剣を血で染めよ、さすれば業は見える。ー

僕はその剣を握り締めた。

幼い頃の決心は憎悪によって黒く塗り固められ、血に塗れる。
暗く、道無き道を歩み、力を渇望し続ける業の権化。
騎士は騎士でも、栄光の道から大きく外れる『暗黒騎士』となった。
刃を振るうその先に希望はなく、もっとも死に近い存在。
空虚な僕には、お似合いだった。

いつだっただろうか。
確かあれはバルクルム砂丘を越え、港町セルビナに着いた時だった。
裁縫ギルドと釣りギルドを結ぶ足場に腰掛けていた時。
「なにボーッとしてるのさ。」
声のした方を見ると、鱗状の鎧に身を包んだ一人のミスラが、傍らに立っていた。
腰に手をやり、まるでモデルのようなポーズ。
不思議と格好つけている風には見えず、妙に様になっていた。
「夕陽が沈むのを見てる。」
「ふーん。」
赤い髪の毛が風に乗り、はためく。
後頭部の頂点でまとめ上げられていた。
強い意志を携えた大きな青い瞳は、幼少の頃に塀の外で見た蒼天を思わせた。
健康的な小麦色の肌が、ミスラ独自の美しさを醸し出す。
一瞬だが、僕は芸術品を見た時の様に心を奪われた。

「ねえ、アンタ暇してるんだろ? よかったら一緒にパーティ組まない?」

思えばジールとの出会いはセルビナだったか、と呟く。
あの時から、よく彼女と行動を共にした。
初めてのキャンプの時に、「変な気ぃ起こしたら、その首カッ切るからね。」と脅してきた。
何度もキャンプを共にして、僕が性欲が沸かない特殊な男と知ると、ジールは僕の事を誰よりも信頼してくれ、頼りにしてくれた。
異性間での、友情が二人の間にあった。
時に守られ、時に背中を預け合い、共に死線を潜り抜けてきた戦友であり、まるで伴侶のようによく行動を共にした。
その間僕はジールが欲しいと思ったりする事はなかった。
ジールも僕の体を求める事はなかった。

セルビナの賭博士と根性試しをやるまでは。

あれ以来、幾度となく肌を重ね、愛し合ってきた。
夜の、愛と恋の台詞を何度も交わした。
なのに・・・
最近のジールは僕を避けている。
会話すらロクにしてくれない所か、眼すら合わせてくれない。
部屋を訪ねても、返事すらしてくれない。
僕は寂しさと不安に埋もれ、堕落した生活を続けている。

ああ、ジール・・・。

君の声が聞きたい。
君の笑顔が見たい。

希望のない、僕の未来を照らしてくれた、ジール。

「お前は正義感の強い娘だね。」

小さい頃に、よく言われた気がした。
物心ついた時から父親の姿は無く、母親しかいなかった。
カザムでは何処の家もそうだったから、別に気にはならなかった。

母親と一緒にウィンダスへと旅立ったのは、いつだっただろう?
思春期前だった事は記憶しているが、正確な時は思い出せなかった。
カザムの皮膚に蝕む湿気、ジリジリとした灼ける太陽、生暖かい風は私が苦手だった空気。
新しい土地の、ウィンダスは心地よかった。

持ち前の好奇心と、腕っぷし。そして気の強さ。
成人した時、私は冒険者が己の天職と確信した。
時を重ねる毎に冒険者として成長していき、私は世界を回り出した。
荒涼とした大地にそびえる近代国家バストゥーク。
商人と冒険者達で賑わい、眠らない街だった。

緑豊かな伝統の国サンドリア。
強い誇りを胸に秘め、女神をこの上無く敬う民。
確か、その時に言われた。

ー良い眼をしている。ー

私はその老人の強いススメで、ナイトの道を選んだ。
誰かのために盾になるのはガラじゃないけど、守るために戦うってのは、何だか自分らしくて良いかなと思ってた。

深いまどろみからの覚醒は頭が重くなる。
舌が乾き、喉の奥に血に似た味を感じる。
口の中が渇ききっているからだ。
血の気が引いたかのように四肢が冷たく、寒い。
女の体温では、レンタルハウスのベットは広すぎて寒いのだ。
耳や鼻にいたっては感覚がないほど冷えていた。
いや・・・確かにそれもあるだろう。
しかし今は心が冷えているから、余計に寒いのだろう。

「・・・ベルーシ。」

愛しい男の名前を、口に出す。
ベットが広すぎるように感じるのは、彼がいないから。
こんなにも寒いのは、彼が傍らに居ないから。
ふぅ、とため息をつく。
もうどれくらい彼とは口を聞いていないだろうか。
リリンさんとのパーティを終えてから、一言も交わしていない。
会わないように、語り合う事のないように。
ひたすらに避け続けている。
彼と会話するのが辛い・・・でも、会話したいと言う想いもある。
別に彼がどうこうした訳じゃなく、喧嘩をした訳でもない。
むしろ私が悪いだけだ。
そう、私が『ミスラ』である事が、悪いだけなのだ。

今日は酒に溺れない。
ジールとのパーティの回数を減らしてまで行っていた金策。
その成果を、今日試すのだ。

人の賑わう、ジュノの下層部。
魔法屋、詩人の酒場、ゴブリンの店、天晶堂・・・何でもある。
レンタルハウスから出て、ガイドストーンを跨ぐ。
右手には大きな噴水、左手には海神楼。
そしてその少し先にある人だかり。
競売所。
僕はそこに用があった。
人だかりの波を掻き、競売所のカウンターへと向かう。

その手に財布を握り締めて。
目指すは素材品。

ジュノ上層。
日替わりパブは、今日は女限定の日。
パブの中は女性の冒険者で賑わっていた。
ここのマスターはよく『女性限定の日』なんて作ったものだと思う。
男限定の時にどんな会話がなされているかは想像つく。
しかし女限定の日が、よもやこんな会話がなされているなんて、男達は予想出来ないだろう。
「彼を寝取られた」「あの泥棒女を許さない」
「この防具、私に惚れてる男から貢がせた」等。
聞くに耐えない会話がやりとりされる。
女特有の、くどい会話がひたすらに繰り返されるのだ。

ざわめきに紛れてても、会話が聞き取れてしまうミスラの聴力が恨めしい。
カウンターに腰掛けていた私は気分が悪くなった。

「すごいわねぇ、相変わらずここはぁ。」
隣に座ったリリンさんが、独り言のように呟く。
「・・・リリンさん、早く出ません?」
私は眉をひそめ、不快感を露にさせて見せた。
「あららぁ、そんな恐い顔しないでよぅ。」
「別にリリンさんに怒っているワケじゃないです。」
くすくすと楽しそうに笑うリリンさん。
「何か最近元気ないわねぇ、さてはベルーシくんとシテない?」
胸にチクリとした痛みを感じた。
視線を落とし、口を付けていないグラスを見つめる。
「・・・その様子じゃぁ、思ったより深刻そうねぇ。ケンカでもしたのかしらん?」
「・・・そんなんじゃ、ないです。」
見つめていたグラスを手に持ち、ぐいっと飲み干す。
「マスター、今度はもう少し強めのちょうだい。」
空になったグラスをマスターに突き出す。

「お酒でごまかそうってのぉ?」

「ベルーシと喧嘩なんて、しません。」
もうすっかり酔っている私は、声を低くして呟いた。
「あらぁ、じゃあ何でエッチしないのぉ? あんなにラブラブしてたのにぃ?」
リリンさんはズバズバと物を言う。
「だって、だって・・・私は・・・・。」
グラスを持つ手が震える。
悔しさから叫び出しそうになる自分を抑える。
「ミスラ、だから・・・」
低く絞り出したかのような声。
うつむき、こぼれそうな涙を我慢する。
「別に関係ないじゃなぁい? ベルーシくんはジールちゃんのコト、愛しちゃってるんでしょぉ?」
「関係なくなんか、ありません。」
「どぉして〜、今更何気にしてるのよぉ?」
「リリンさんだって、女なら解るでしょう?」

私の言葉に首を傾げるリリンさん。

「あっ、リリン。久しぶりー。」
背後から聞こえた声。
「あっ、エイダちゃん、お久ぁ〜。」
リリンさんが身体をひねって、声の主に応える。
後ろを見ると、ヒュームの女が立っていた。
きらびやかな金の施色に、青い生地。
白魔道士専用の、美しいチュニックを着ていた。
眼をこすり、涙ぐんだ瞳を誤魔化す。
「そちらのナイトさんは?」
初めましての挨拶もない女にムッとする。
神経質になっている私には苛立ちしか生まなそうな女だ。
「このコはジールちゃん、私の妹分みたいなコよぉ。」
「へぇ〜、よろしくね、ジールちゃん。」
にっこりと微笑むエイダだったが、生憎今の私に笑顔で応える気力はない。
向きを戻し、酒を飲み干す。
「あらら、愛想がない妹分ねえ。」
「思春期なのよぉ。このコってば。」
そう言って、リリンさんが私の頭を撫でる。

エイダは俗に言う白姫だった。
口から出るのは男と金、そして自分の自慢話。
私はイライラし始めたが、向こうは気付くはずがない。
リリンさんは笑いながら会話しているが、普段よりそっけない。
多分、リリンさんもこの人の事が好きじゃないんだ。
私は話に加わらずに、酒を飲み続けた。
飲めば飲むほど、ベルーシへの想いが強くなる。
『妻にする』・・・何と甘美な言葉だろうか・・・。
彼の腕で抱かれ、包まれ、その胸に甘え、喜び、苦しみを分かち合えるのだ。
こんなに嬉しい事はあるだろうか?
こんなに幸せな事はあるだろうか?
今、その喜びと幸せが目の前にある。

でも・・・私は・・・・。

「どうしたの? 元気ないわねー?」

私の黙考を邪魔する女の言葉が、耳から入り夢想から呼び覚ます。

「さっきからお酒ばっかり飲んじゃって、お肌に良くないわよ?」
アンタに心配される覚えはないわよ、と言う言葉を酒と共に飲む。
「そんなんじゃ男に嫌われるわよ?」
ふふ、と微笑むエイダ。
その瞳からは見下し、卑下する色が映っている。
「心配しなくてだいじょぶよぉ、ジールちゃんにはラブラブな彼氏がいるんだからぁ。」
リリンさんが、私にかわって言葉を返す。
「へぇ〜、そうなんだぁ。」
私をじろじろと見つめるエイダ。
「彼氏って、ヒュム?エル?タル?」
興味津々とでも言ったところか・・・そんなに私みたいなミスラに男が居たらおかしいか。
アンタに教える義理なんて無いじゃないか、と言う言葉をまた酒と共に飲む。
「かわいい顔したエルよぉ。」
またしてもリリンさんが答える。

私は女に対し、更に苛立ちを募らせていた。

「もうかなり進んだ仲よぉ。この間なんて、奥さんにするって言ってたしねぇ。」
リリンさんの一言に、エイダが首を傾げる。
「あれ? でもミスラって同種族じゃないと子供作れないんじゃ・・・」

「うっさいわね!!!」

一瞬にしてパブの中は静寂に包まれる。
気が付いたら、手に持っていた酒をエイダにぶちまけていた。
「なにすんのよ! この服高かったのよ!?」
酒でずぶ濡れのエイダが、激情に身を震わせる。
「なにさ、自分で買ったわけでもないだろうに!!」
私も負けじと声を張り上げる。
席を立ち、睨みあう私とエイダ。
エイダが片手を振りあげ、平手うちの姿勢に入る。
だがそれよりも早く、私の手の平がエイダの頬をはたく。
白の平手うちなんて食らうかい、と私はエイダを睨みつける。
呆然とするエイダ。
しばらくして、凄まじい怒りを帯びた眼で私を睨んできた。
はたかれた頬を押さえ、足を店の出口へと向ける。
「なにさ、女として欠陥のくせに。」
そう吐き捨てると、エイダは店の外へと出ていった。

店内に客の姿はもう無く、店のカウンターにリリンさんと私を残すだけとなった。
店内は静寂に包まれ、グラスと氷のぶつかる音だけが響く。
「ジールちゃんもやるわねぇ、あのエイダをおっぱらうだなんてさぁ。」
リリンさんが感心の声で、語りかけてくる。
私はグラスを見つめ、ゆっくりと回す。
カランカランと軽快な音が、妙に悲しく聞こえてくる。
「ねぇジールちゃん、どうしたのよぉ? 悩みがあるなら相談に乗るわよぉ?」
私の背中をさすりながら、優しく言う。
「私は、ベルーシの妻になる資格はないんです。」
口に出すのも辛い悲痛な言葉。
カザムに居る時に教わった、教育。
・・・ミスラはミスラとしか交われない。
つまり、いくらエルヴァーンのベルーシが私を愛してくれていても、ミスラである私は彼の子供を産めないのだ。
それを現実として直視した私は悔しくて仕方がなかった。
「ねぇ・・・教えてよぅ。」
リリンさんの言葉にも答えず、私はそのまま黙っていた。
思えばベルーシと何故肌を重ねてしまったのだろう。
愛し合えば私達が苦しむ事くらい解っていたのに。
子を産めないと知って、落胆するベルーシの顔を見たくない。
何でミスラで生を受けてしまったのだ。
他種族の女なら、ベルーシの子を宿せたのに。

私はついに、涙をこぼしてしまった。

ベルーシに申し訳なくて。
自分に悔しくて、情けなくて。
アルタナの神が、恨めしくて。

「もう閉店だよ、悪いが勘定払ってくれ。」
マスターからの伝票を、リリンさんが受け取ってくれた。

「ほらぁジールちゃん、帰るわよぉ?」
「す、すみましぇん・・・。」
涙をこぼし、ぐずる私に肩を貸してくれるリリンさん。
うまく地に足をつけられない程、私は酔いが回っていた。
視界がぼやけ、世界がぐるぐる回り、ゲフッとおくびが漏れる。
これは二日酔い決定だな、と他人事のように思った。

「君が酒に飲まれている姿は、初めて見た気がする。」
熱持った頭に、涼しい風と共に声が届く。
日替わりパブから出た私とリリンさんの目の前には、ベルーシが立っていた。
その後ろには腕を組んで立つ、アックスアームの姿。
「何さ、わたしだってたまにはねえぇ、げふっ」
意気込もうと思ったが、吐きそうだったので止めた。
「あらぁベルーシちゃん。よくここがわかったわねぇ。」
「日替わりパブで酒をかけられた女性が、だからミスラは嫌いなのよ・・・て、道行く人々に吹いて回ってる女が居てね。何となく、カンで来てみただけだよ。」
「その割には、ジールに間違いないって確信してたな。」
アックスアームからの横槍。
「余計な事を言うな。」

「ジール。」
相変わらずの虚ろな瞳。
少し会わないだけで、こんなにも懐かしく感じるものなのか。
「・・・なにさ?」
わざとそっけなく答える私に、ベルーシはあるものを取り出した。
そしてそれを私に向けて、差し出す。
リリンさんが、わぉっと感動する。
「・・・・・。」
酒で歪んだ視界が一気に正常化し、頭に取り付いた粘液のような熱がぽとりと落ちる。
ベルーシの手には、美しい純白の華で作られた髪飾り。
コサージュに付いた葉らしき形のものの所に− ベルーシ −と名前が入っていた。
「これが作れるようになったら、君に一緒になろうと言うつもりだった。」
唇が震え、足先と指先からふわりとした熱が沸く。
身体も震える。

「ジール、僕と一緒になってくれ。」

下唇を歯で噛み、堪えようとしたが駄目だった。
大粒の涙がぼろぼろとこぼれる。
ベルーシが優しく微笑む。
「ごめん、ベルーシ。私はあなたと一緒になれないの。」
リリンさんとアックスアームが、えっ!?と驚く。
「どうしてだい?」
「私が、ミスラだから。」
「そんな事、関係あるものか。」
「大いに関係あるのよ、私にとってもベルーシにとっても。」
淡々とした会話のやりとり。
「僕は君を愛している。君は違うのか?」
「私だって、ベルーシのこと好きさ。」
「じゃあ、どうして?」
胸が締め付けられる。
苦しくて仕方がない。
でも言わないと、いけないことだ。
「どうしてなんだ、ジール。」

「私はミスラだから、あなたの子供を産めないの。だから、ベルーシとは一緒になれない。」

言ってしまった。
遂に、言ってしまった。
言ってしまったら、ベルーシと別れるしかない一言を。
私は涙を流し、咽ぶ。
「なぁるほどねぇ。」
リリンさんが納得したかのように声を出す。
母親が子供にするかのように、ぎゅっと抱き締めてくる、リリンさん。
私はその好意に甘え、胸で泣かせてもらう。
「まったくしょうがないコねぇ。」
よしよしと私の頭を撫でるリリンさんを見つめ、立ち尽くすベルーシ。
私の涙の意味を理解していないのだろうか?
悔しくて、悲しくて、どうしようもない事実を告げたのに。
「ベルーシ、ジールを部屋に連れていってやるんだ。俺も一緒に行く。」
「分かった。」
ベルーシはリリンさんに泣きつく私を剥し、抱きかかえる。
お姫様抱っこと言う、恥ずかしい格好だったが、今の私は泣く事しか出来なかった。

久しぶりに、自分以外の人間が部屋に入った気がした。
ベルーシに抱えられたまま、ベットに降ろされる。
シーツが冷たかったが、火照った頭や身体にはちょうど良かった。
頬に酒の火照りとは違う温もりを感じる。
ベルーシの手だ。
優しく髪を撫で、まるで子供を眠りにつかせているかのようだ。
「ジールちゃん、まずは落ち着きなさいねぇ。」
少し遠くから聞こえるリリンさんの声。

「ベルーシ、ちょっと良いか?」
ドアの方から聞こえた野太い声は、アックスアーム。
ベットがきしみ、重みから解放されて少し弾む。
行かないで、と声に出しそうになるのを堪えた。
「ジールちゃぁん。」
再びベットが少し沈み、リリンさんの声が間近になる。

「ちょっとお話しましょぉねぇ。」

「何だ、アックスアーム。」
部屋の外の通路で、僕とアックスアームは並んでいる。
腕を組み壁に寄り掛かり、眼を閉じている。
その口が、静かに語り出す。
「ジールの気持ち、察してやれ。」
「何がだ。」
「俺は分かる。種族を繁栄させるための交わりを必要としないガルカだからな。」
「何がだ。」
「ジールは辛いのだ。お前との間に子を設けられない事が。女にとって、それがどれだけ大きな苦悩であり、大きな悲哀である事か・・・分かってやれ。」
「そんなの関係ない。」
「分からないのか? お前がジールを強く想う程、ジールはお前を想って、苦しむのだ。愛に比例した分の哀がジールを冷たく蝕み、女としての劣等感を強くさせるのだ。」
「僕に彼女を諦めろとでも言いたいのか?」
「あるいは、な。」
「確かに、子を宿せない事は枷になるかも知れないし、ジールにとって、僕からの愛情は辛いかも知れない・・・けど。」
アックスアームは僕の言葉を黙って聞き入る。
「辛いだけ、苦しいだけじゃないと思う・・・・ジールの身を包む温もりも、きっとあるはず。」
「だから、後ろを向かないで欲しい。僕と向き合って欲しい。」
僕が言い終えると、アックスアームは微笑んだ。
「その言葉、ジールにも聞かせてやるんだな。」
「何より大事なのは、ジールと一緒に居られる事なんだ。」
「よく言った。」
眉をひそめ、アックスアームを軽く睨む。
「何だよ、ジールの父親みたいな態度して。」
「ガルカから見れば他種族は皆、子供みたいなものだ。」
「それもそうか・・・。」
「女は男より芯が強い、だがふとした時にそれが崩れる・・・そこで支えてやるのが男ってヤツだ。」
「くどい。」
僕もアックスアームの隣に立ち、壁に背を預ける。
不意にドアからノック音が聞こえた。
ドアが開き、顔だけ出すリリンさん。
「男同士のお話はもう終わったかしらぁ?」
「ああ、終わったぞ。」
リリンさんはうふふっと笑い、
「じゃぁ、ベルーシちゃん。ちょぉっといらっしゃ〜い。」

手招きされ、僕は部屋へと入っていった。

僕とジールはベットに腰掛けている。
ジールはもう泣き止んだらしく、落ち着いた様子で良かった。
心なしか、頬が赤いが。
リリンさんは僕達の正面に立っている。
しばらくの間、そしてリリンさんの口が開く。
「えっとぉ、ジールちゃんにはお話したけどねぇ。ベルーシちゃんにもお話しないとねぇ〜」
手の平を肘に当てた、独自の腕組みをしながら語り出す。
「あのねぇ、ミスラが他種族の男と赤ちゃん作れないってのはぁ、ウソってことぉ。」
え? と言葉を漏らしそうになる。
「そりゃあ男ミスラとすればポンポン出来るけどぉ、他種族の男とじゃ作れないんじゃなくて、なかなか出来ないってだけの話なのよぉ。」
「でも、さっきジールが・・・。」
「カザム出身のコは、そう教わるのよぉ。そうじゃないとみんな他種族の男に走って、カザムのミスラが激減しちゃうかも知れないでしょぉ? お・わ・か・りぃ?」
子供に言い聞かせるかのように、言うリリンさん。
「まぁ冒険者もほとんどの人がぁ、ミスラは他種族と交われないって思ってるのも確かなのよねぇ。」
僕は黙って聞き入る。
「同じアルタナの女神様のもとに生まれてるのに交われないってのも、おかしいでしょぉ?それに男ミスラとしか子供作れなかったら、ミスラの種族個体数は減る一方よん。」
言われてみれば、そんな気がしなくもない。

「ようするにぃ、赤ちゃんが欲しかったらぁ・・・」
僕は身を乗り出して、聞く姿勢に入る。
「男が頑張ってエッチしまくれってことなのよぉ。下手なテッポーも数撃てば当たるってことよん。」
あははははっと笑うリリンさん。
「と言う訳でぇ・・・ベルーシちゃん、頑張ってねぇ。」
「頑張って、と言われても・・・う!?」
急に世界が回り、正面に天井が映る。
ジールが僕の上にのしかかり、唇を貪るかのように吸い付く。
「ちょ、ジ、ジール、リリンさんがまだ・・!」
「はぁ・・・んん・・・・。」
熱い吐息の中に、ほのかに酒気を感じる・・・まだ酒が抜けてないんだ。
「ジールちゃん、私のお話を聞いてからヤル気まんまんだったもんねぇ。」
ジールの肩越しに見えるにやけたリリンさんの姿。
舌と舌のなぶり合いの中、手際よくジールは僕の鎧を脱がせていく。
「んっ・・・・んん・・・」
ジールの甘い吐息が官能的だ。
あまりの刺激に脳が麻痺してしまったかのような熱に包まれる。
いつの間にか僕は下着一枚にさせられ、ジールは一糸纏わぬ裸体となっていた。

「ぶはっ・・・ジ、ジール、久々なんだから、もう少し・・・」
話でもしようよ、と言おうと思ったらまた唇を塞がれた。
「じゃっ、頑張ってねぇ〜。」
リリンさんの後ろ姿が遠くなってゆく。
耳を唇で甘噛みされる。
そして即座に下へと進み、首筋に口付けをされ思いきり吸われる。
「痛たっ」
キスマークつけたんだな、と解った。
「ベルーシ・・・。」
ジールの瞳を見つめると、熱く潤んでいて、何処かはかなく見えた。
僕に対して求める瞳だ・・・。
胸板に手を這わせ、身体全体で蛇のように絡みついてくる。
ジールのすべすべした肌に密着して、気持ちいい。
僕の股間へと手を滑りこませ、僕のものを愛撫し始める。
「あっ、う・・・。」
快感に思わず声を出してしまった。

撫でられ、さすられ、指先で弄ばれる。
「ベルーシ・・・気持ち良い?」
ジールの方を見ると、熱い瞳が携えられていた。
「うん、気持ち良い。」
僕の言葉に、うっとりとした眼をして、微笑むジール。
もの凄く淫らでいて、綺麗だ。
身体を沈め、僕の下着をはぎ取り、僕のモノを露にさせる。
すでに痛いくらいに張りつめていた。
ジールはそれを手に持つと、自分の乳房や乳首に押し付けたり擦りつけたりしてきた。
柔らかい感触と、少し固い感触で責められ、吐息にも似た喘ぎを漏らした。
「ああ・・・ベルーシの、固くて熱い・・・」
震えるような声で上言のようにつぶやく。
「ジ、ジール、君のもさせてくれ。」
「ダメよぉ・・・今日は私が奉仕するの・・・。」
淫らなジールの様に興奮し、ますます僕のモノは固くなる。
ジールは僕のモノに両手を添えて、丹念に嘗め始めた。

「はぁ・・・うっ、あっ、ジール・・・。」
「んっ・・・んふっ、んんん・・・」
ジールは僕の方を見つめながら口に含んでいた。
その瞳は何だか楽しそうにも見える。
痺れにも似た快感が足元から上がって来て、身体全体に広がってゆく。
激しい吸引の音が部屋を木霊し、聴覚を刺激する。
腰骨のあたりがむずむずとし出した。
「ごめん、ジール、久しぶりだからもう出ちゃいそうだよ。」
「うん・・・わかったわ。」
僕のモノから口を離すと、銀の粘糸がつつー・・・とジールの唇から引かれる。
ジールは僕にまたがり、己の秘部へとあてがう。
「えっ、ちょ、ちょっと。」
僕の制止の言葉も聞く耳持たぬ、ジールはそのまま一気に腰を落とした。
「あっ、んああぁ・・・・。」
音も無く飲み込まれ、根元まで包み込まれてしまった。
ジールの甘い声が、一層絶頂をあおる。
狭く暖かく、柔らかいジールの内部が、気持ちいい。
熱くて、吸い込むように締め付け、まるで僕のモノがジールの中で溶かされてしまうかのような錯覚を感じた

ギシッ・・・ギシッ・・・・。
ベットのスプリングがきしむ音が、部屋に響く。
ジールは脚を広げて腰を振り、わざと繋がっている所を僕に見せてくる。
目の前で形の良い乳房がぷるんぷるん揺れて、視覚を二重に刺激する。
「はっ、あっ、あんん・・・んにゃあぁ・・・」
喘ぎ声に『にゃ』と言う言葉が含まれると言う事は、ジールも相当溜まっていると言う事だ。
腰を振る度に熱い吐息を漏らす様は美しく、そして淫ら。
僕はもう射精を堪えるのは限界に近かった。
「ジール、で、出るよ・・・もう、出そう。」
その言葉にジールは息を荒くしながら、
「出して・・・ナカに思いっきり出してぇ・・・」
「ジ、ジール・・・!」
僕はジールの言葉に反応し、腰の振りに合わせて下から突き上げるように動く。
「あっ、ふわぁぁっ!?」
もう、たまらない・・・ジールの一番奥で射精したい。
腰を止める事なく、突き上げ、貫こうと動かす。
「あにゃっ、だめっ・・!激しすぎる、にゃぁぁ!」
スプリングのきしむ音が加速し、絶え間なく響く。

「ぐぅっ・・・うっ・・・!」
僕は射精を堪え、歯を食いしばりながら必死に突き上げる。
苦痛にも似た快感が渦巻き、唸り声にも似た声が喉から絞り出される。
「ベ、ベルーシ・・ わたし、もぅイッちゃうよぅ・・・」
ジールの四肢が緊張しているかのように震え出した。
同時に僕のモノがぎゅうぅっ、と締め付けられる。
「出してぇ・・・私を妊娠させてぇ・・・!」
柔らかくて滑りの良いジールの肉壁は、僕のモノを吸い上げるかのように絞り、激しく愛撫した。
「うあぁっ!!!」
全身を貫くかのような凄まじい快感に耐え切れず、僕はジールの中に大量の精液を放った。
「んにゃあぁぁぁっ!!」
ジールの身体が、電撃を浴びせられたかの様に跳ねる。
舌をだらんと延ばし、恍惚とした瞳が彼方を見つめ、紅潮した頬。
口の端からは一筋のヨダレを垂らしていた。
ピンと真っ直ぐに立った尻尾が、快感の強さを理解させる。
僕は未だに射精が収まらなかった。
「にゅぅ・・・んぁっ・・・出てるぅ・・・」
魂が抜けたかのように、覆いかぶさってくるジール。
僕は、ピクピクと震えるその身体を抱き締めた。

互いに求め合うのには慣れていたはずだった。
けれど、今日の様に激しく求められたのは初めてだ。
僕の上ですっかり安眠してしているジールを、起こさないように降ろす。
「・・・離さないでよ。」
「・・・起こしちゃったかな、ごめん。」
首に腕を回し、抱きついてくる。
「ジールが僕を避けたのは、僕の子供を宿せないと思ったから・・・だよね?」
僕の言葉に頷く、ジール。
「好きな男の子供を産めないってのは、女にとって凄い辛いのさ。」
「そんな事気にしないって伝えても、君は僕を避け続けた?」
「うん・・・たぶん、ね。」
ジールの髪の毛をそっと撫でる。
「アンタなら、すぐイイ女を見付けられると思ってたから。」
「僕にとって、君より良い女性はいない。」
「言ってて恥ずかしくならないのかねぇ、ベルーシ。」
「恥と感じる事は言ってないつもりだけど。」
ジールは僕の瞳を見つめ、クスッと笑う。
「いつもと同じ眼だ、本当に恥ずかしくないんだねぇ。」
「さっきの君の乱れようの方が恥ずかしいと思うけど。」
「バカ。」

僕を見つめるジールの瞳は、嬉しそうだ。
そんな彼女を見つめていると、心が安らぐ。
「そう言えば聞いてなかったね、ジールの答え。」
「答え?」
「僕の妻になってほしい。でもまだ君の答えを聞いていない。」
一瞬目を丸め、すぐ真顔に戻ると、ジールは視線を伏せ、答えあぐねる。
「・・・私は、負けん気が強くて、がさつで、乱暴で、体に傷も多いミスラだよ?」
リリンさんに事情を説明される前だったら、更に『アンタの子供を産む事すら出来ない』と付け足されていただろう。
「それを承知で、気持ちを伝えているんだよ。」
一瞬間を置き、視線を再び僕へと戻す。
「・・・ベルーシ、私で良いの?」
熱く潤んだ蒼天の瞳に吸い込まれるかのようだった。
僕はゆっくりと頷き、

「君しかいない。」

と、答えた。

「ありがとう・・・嬉しいよ、ベルーシ。」
ジールの瞳から一筋の涙がこぼれる。
僕は何も言わずに、ジールを強く抱き締めた。
眼を閉じ、その胸に彼女を感じた。
「でさ、ベルーシ。」
「ん?」
抱き締めていた、その腕を解く。
ジールは視線を宙に舞わせ、口をもごもごさせている。
「え〜っと、その・・・ムード壊しちゃって悪いんだけどさ。」
照れくさそうに頭を掻くジール。
「ほら、リリンさんが言ってたよね?下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるってさぁ」
ジールの手が僕の股間へと滑り込み、僕のモノを握る。
「だからさぁ・・・もっと鉄砲撃たないと、ねっ?」
照れながら笑うジール。
僕は笑顔で応え、ジールを身体の下に敷いた。
「・・・僕の身体、もつかな?」
おどけて見せた僕に、ジールは、
「今までずっと中に出してて妊娠しなかったから・・・覚悟はしておいた方が良いね。」

僕とジールは、二人で楽しそうに笑った。



「うまくいったみたいよぉん。」
「そうか、まあ心配する必要も無かっただろうが。」
聞き耳を立てていたリリンがにっこりと笑う。
「あの二人ならうまくやっていけるはずさ。」
「そうねぇ、何だかんだで似た者同士だしぃ、幸せになれると思うわぁ。」
組んでいた腕を解き、ゆっくりとその場を去ろうとする、アックスアーム。
リリンもそれにならう。
ふと、巨体の主が立ち止まった。
大きな背中にぶつかるリリン。
「なぁに? 急に立ち止まってぇ。」
ああ、すまんと謝るアックスアームの顔は眉をひそめて、不機嫌そうな表情だった。

「部屋に帰るのはまだ早い。俺にはまだやる事があった。」

その言葉の意味をリリンは解せずにいた。

「気になるならついてこい。」

「だからぁ、ジールって言うミスラがここでレンタルハウス借りてるでしょ!?部屋の番号教えなさいよ!」
「でもお客様・・・これはルールでして。私共レンタルハウス係はお客様のプライバシーに関わる事は他言禁止なのです。」
オロオロとしながら答える係員に、ああ、もう!と苛立つ女。
その後ろには取り巻きらしき男が三人程立っている。
「まったく使えないわね!」
ヒステリックに喚き散らす女。
カウンター越しの係員も、困った顔をしていた。
「エイダちゃぁん、なぁにカリカリしてるのよぉ?」
リリンの声に気付き、エイダはこちらを向きズカズカと大股で歩いてきた。
「リリン!あのジールって言うミスラの部屋の番号を教えなさいよ!知ってるんでしょ!?」
リリンは臆する様子は微塵も無く、
「やだぁ、教えるわけないじゃなぁい。アナタなんかにさぁ?」
ケラケラと笑うリリンを見て、睨むような視線のエイダ。
「あらそう・・・なら、教えないと、アンタから酷い目に合わせるわよ。」
後ろの取り巻きが歩いてきてリリンを囲む。
「あら恐いわぁ。」
「さあ、教えなさい。」

「う、うわっ!?」
驚愕の声を上げたのは、取り巻きの一人だった。
見ると、そこには頭を掴まれて宙に浮いている男の姿があった。
頭を掴む者はもちろん、アックスアームだった。
思わず後ずさる取り巻きとエイダ。
静かなる怒りを携えたガルカ・・・それはまるで凶暴なモンスターと変わりない程の威圧的な眼光。
「言っておくが、人間の頭を握り潰す事くらい訳は無い。街中でも頭防具は着けておくんだな。」
「いでっ、いでえぇぇがあああぁぁっ!」
「あら恐いこと言うのねぇ。」
ミシミシとした音が聞こえてきそうな雰囲気。
足をじたばたさせ、もがく男。
掴んでいた男を後方へと放り投げる。
ギロリと男達を睨むアックスアーム、それに対して負けずに睨み返したりはしていなかった。
完全に気圧されていた。
「エイダちゃぁん、今日のことは忘れてぇ・・・ね?」
リリンがエイダに優しく微笑むと同時にアックスアームが指をボキボキと鳴らす。

エイダと取り巻き連中は捨て台詞を吐く事無く、そそくさと去っていった。
あそこまで露骨に脅せば当たり前だが。

「これであの二人を邪魔する者は居ないだろう。」
「そうねぇ、お疲れさまぁ。」
リリンがアックスアームの背中をぽんと叩く。
「それじゃあ、俺は部屋に帰る。」
「はぁい、またねぇ。」
アックスアームに背を向けて去る、リリン。
「またね、か。」
アックスアームも同じように背を向け、立ち去る。
そして、歩きながら、

「今度会う時は、あの二人の結婚式だな。」

と、独り言を呟いた。


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